フォト&エッセイ 自転車のある風景 第三回 県境


長野県は都道府県で一番多くの県と隣接している。

“信濃の国”では十州と歌われているが、現在でいうと、新潟、群馬、埼玉、山梨、静岡、愛知、岐阜、富山の8県が長野のお隣さんである。橋を渡るとすくに隣の県で日常生活の中で県を求たいで暮らしている地域と違い、ここ千曲市からだと山を越えないと隣の県に行けなかったり、県境にたどり着くまでに東京に行くよりも時間がかかってしまったり、富山に至っては、県境がすべて3000m級の北アルプスにあり、公共交通機関を乗。継いでしか県境を越えることが出来ない。

そんなわけで、千曲市から自転車で県境を超えるという経験をすることはあまりないかもしれない。


 今月の写真は息子が小学4年の時に初めて県境を越えた時の一枚である。写真の中の息子の笑顔は、自分の足で県境を越えた達成感から浮かんだものではなく、キツイ登りがやっと終わり、ラクちんな下りが始まる安堵感からにじみ出た笑みである。

県境には何かがあるわけではなく、ただの山の頂上たったり川だったり目的地に向かう途中の通過点てしかない。ただ、自分の足で汗水たらして自転車で越えた県境はその人にとって特別な場所になると思う。

今でもクルマでその場所を通ると、あの時の息子の姿がセミの声や草いきれとともに蘇ってくる。

遠い夏の日の大切な一ページである。