ウッドハウスの世界(7)森村たまき

 こんにちは、イギリス生まれのユーモア作家、P・G・ウッドハウスの翻訳をしております、森村たまきです。ずいぶんと長くなってしまいましたが今回も英国ウッドハウス協会主催二〇〇七年の『アーウイークーウィズーウッドハウス』ツアーのお話の続きです。一週間の後半、ウッドハウス聖地巡礼のバスツアーで日本におけるウッドハウス翻訳事情を世界中から集まったコアな参加者たちに向けてスピーチするというミッションを前に、前日まで原稿も仕上がらず、緊張はいや増すばかりというのが前回までのお話でした。

 それでまあ、結論から言い求すと、なんとかなったのでした。ウエストエンドでゴルドーニの『二人の主人を一度に持つと』を観て、宿帳戻って明日からのバスツアーのために荷物をまとめて覚悟を決め、とにかく何か書かなければならないと筆を執ったのでした。ウッドハウスの翻訳者の話なのだから、笑いがとれるくらいに面白くなければいけないし、でも翻訳の精度や作品の理解、作品のスピリットをちゃんと伝えているかについて本家英語圏の皆さんに不安を抱かせるようではいけません。何より作者と作品への愛情と尊敬と仕事への情熱を全力で伝えなければいけないと、準備したスピーチ原稿でしたが、驚くなかれ大喝采の大成功であったのでした。笑いもだいぶとれたし、信じられないことに涙ぐんでいる人までいて、ツアー中ずっと色々な人に、よかったよかったと声をかけてもらえて、半信半疑で恐縮しながらも、話をするのは大事と思ったのでした。

 大仕事が済んでからは、ある時は晴れ、ある時は土砂降りのイギリスの夏を満喫しながらウッドハウス・ワールドの城と館、庭園、バラ、ブタなどなどを思う存分楽しむばかり。ブランディングス城のモデルの一つ、シュートリー・キャッスルには作品に登場するいイチイの木の生垣でできた迷路があるのですが、そこを作品に登場する「スミス氏」の真似などしながら通り抜けると、出たところには英国協会会長のご夫君、ロバート・ブルース氏が庭師のマカリスターの扮装で待ち構えていて、ノーマン・マーフィーとうきうき並んで踊ってくれたのでした。ウッドハウス・ワールドは本当にあるのです。 

楽しいことばかりのこの旅行で仲良しになったアメリカのウッドハウス友達たちに、「アメリカウッドハウス協会の二年に一度のコンベンションには来ないの?」と、誘ってもらい、三ヶ月後、今度はアメリカはロードアイランド州の州都プロヴィデンスで開催され九大会にも初参加してしまったのでした。というわけで、次回はその話をいたしましよう。
 写真はノーマン・マーフィーとロバートーブルース。