フォト&エッセイ 自転車のある風景 第十回 雪中サイクリング 

太くてゴツゴツしたタイヤを履いたMTBは、雪の中でも走る事が出来る。だが、そんなMTBで実際に雪の中を走ってみると、いろいろやっかいなことに気付かされる。先ずはブレーキが効かない。自動車のようにタイヤが滑って雪の上で制動しないのではなく、そもそもタイヤの回転が止まらないのだ。

ブレーキは車輪の金属の部分を挟んで、回転する力を熱エネルギーに変換して止まるのだが、車輪が雪の中で常に冷やされていると、摩擦熱が起こらずにいくらブレーキレバーを握ってもタイヤは回り続けてしまうのだ。その他にもチエ一ンについた雪がギアの隙間を埋めてしまい、ギアは小さい方からどんどん使えなくなっていく。その上、フレームとタイヤの間に雪が詰まって回転が重くなったり、ワイヤーの中に入り込んだ水が凍って、ブレーキや変速のワイヤーの引きも重くなる。ふだん当たり前にできることが、雪の中を走り続けると、どんどん出来なくなってしまう。 

そんな思いまでしてなぜ雪の中に行くのか?それは、自分の呼吸とタイヤが雪を踏む音しかしない見渡す限り白一色の景色の中を走っていると、自分も大自然の一部になったように感じられ、まるで北極を犬ぞりで旅する探検家になったような錯覚を起こさせてくれるからだ。自宅から自転車で行ける場所でそんな気分を味わえる。

今まで気付かなかった地元の小さな魅力をもっと発見して行ければ、目に映る日常の風景が変かって来るかもしれない。

写真と文・石黒靖彦

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