ちくまブックレビュー『夢三十夜』

『夢三十夜』

   「坊っちゃん文学賞」書籍編集委員会編     学研プラス社 1000円+税

 「坊っちゃん文学賞」をご存知ですか?夏目漱石の代表的作品である「坊っちゃん」に描かれた街で知られる愛媛県松山市。その市政100年を記念して始まった文学賞で、今年で18回目。令和になってからはショートショートの文学賞にリニューアルしました。ショートショートとは数ページの超短編小説で、この「坊っちゃん文学賞」では4000字以内での作品が対象となります。ショートショートで有名な作家としては幾多の名作を残している星新一さんを思い浮かべますが、私はアンパンマンに代表されるやなせたかしさんの『3分間劇場』(サンリオ刊:絶版)をお薦めします。機会がぜひあれば読んでください。

 さて今回紹介の『夢三十夜』は、この「坊っちゃん文学賞」で大賞を受賞したものを集めた、傑作揃いの作品集です。同じく夏目漱石の代表作『夢十夜』をオマージュしたタイトルがつけられていますが、様々な作家のショートショート30編が並び、1話読むごと5分後には不思議な世界へ誘っていきます。

 そして本書には、千曲市在住塚田浩司さんが大賞を受賞した第15回の作品「オトナバー」と書き下ろし「名曲誕生秘話」の2編が収録されています。

 ちなみに長野市篠ノ井石川には夏目漱石の先祖発祥と言われる夏目城跡があります。今は湯ノ入神社として祀られ、千曲市に向けて鳥居が構えられているのは何かの縁(?!)なのかもしれませんね。(文:田中一樹)

     屋代西沢書店ほか県内書店で発売中。