おじょこな800字小説 作・塚田浩司  第二十五回「年齢制限」

おじょこな800字小説  第二十五回

「年齢制限」

作・塚田浩司  

 学校へと歩いていると、一台の車が俺の横に停まり、運転席の窓からクラスメイトの五十嵐が顔を出した。 

「乗っていくか、そのペースじゃ遅刻するぞ」五十嵐が助手席を指さした。

「いや、やめておくよ。お前の運転じゃ危なっかしいからな」

「そっか。じゃあ後で」そう言うと、五十嵐の運転する車は走り出した。こんなことを言うと古い人間だと思われるかもしれないが、どうも中学生の運転する車には乗る気にならない。

 年齢に関係なく免許が交付されるようになって二年になる。

 その昔、法律が変わり成人年齢が二十歳から十八歳に引き下がった。それからというもの、人口減少による不景気の影響もあり、経済対策として、あれよあれよと年齢による制限が撤廃された。さすがにアルコールやタバコはその対象ではないが、自動車免許と同じように様々な法律改正が行われたのだった。

 校門の近くの、駐車場には生徒の車でぎっしりだ。これも法改正が影響しているとしたら経済政策には成功しているといえるのだろう。

 そんなことを考えながら歩いていると、ホームルームを知らせるチャイムが聞こえた。やばい。五十嵐の言う通り遅刻だ。俺は慌てて走った。すると、その時、「どん!」と何かが激しくぶつかった。俺の体がスローモーションのように宙に舞う。どうやら車にひかれたらしい。しかもあの車は隣のクラスの田辺の車だ。ほら言わんこっちゃない。中学生に車を運転させるとこういう過ちが起こるんだ。そこで俺は気を失い思考は停止した。

 次に意識を取り戻したのは病院に運ばれている時だった。目を覚ました時、ナースと目が合った。

「安心してください。打ちどころは悪くなさそうですから」

 声の主は五十代くらいのベテランナースで俺はほっとした。やはりベテランは安心感がある。

 手術室に入るとすぐに担当医があいさつに来た。

「これより麻酔をします」

 妙に高い声だった。違和感覚えた俺は声のする方を見てぎょっとした。

担当医はあどけない顔をした少年だったからだ。