フォト&エッセイ 自転車のある風景 第三十回 オーストラリア横断自転車旅行⑲

フォト&エッセイ 自転車のある風景

第三十回 オーストラリア横断自転車旅行⑲

 オーストラリアを旅する日本人の間を、旅人の手から手へと渡りあるく幻のノートがあった。そのノートの名前は”サザンクロスノート”。旅人達の想いがいっぱい詰まったそのノートは、自分の旅と入れ違いで日本にいる発起人の元に戻ったらしい。なので旅の途中に幻のノートと出合う事はなかったのだが、かわりにもっとレアなノートが自分の元に回って来た。

 裏のサザンクロスノートと呼ばれるそのノートの名前は”サンザンクロウスルノート”。つまり、散々苦労した旅のあれこれが書かれたノートなのだ。そのノートを自分に渡したのはナラボーの真ん中で偶然再会したパースにいた時のクラスメート。その友人は、オートバイでオーストラリア一周の旅を終えて、これからパースに帰る途中だった。予期せぬ僥倖に話したいことは尽きなかったのだが、お互いに先を急ぐ身。それぞれの愛車に戻って出発の準備をしている時に”あっ、ちょうど良かった”と言ってなにげなく手渡されたのがそのノートだったのだ。

 その後は再会で生じた旅の遅れを取り戻す事に気をとられてノートのことはすっかり忘れていた。夜になってテントの中で思い出してノートを開いてみる。なかには小説のような読み応えのある旅人達の生の体験記がつづられていたのだが、いつもテントに入るとすぐに寝てしまうのでほとんど読み進める事が出来なかった。そのうちに、このまま誰にも会えずに日本まで持って帰りそうな不安にかられ、ようやく出会った日本人にノートを渡して、肩の荷が下りてほっとしたのを覚えている。ババ抜きのジョーカーが手元を離れたようなそんな気持ちだった。

 今あのノートはどこにあるのだろう?自分は何か書いたのだろうか?何も覚えていないので、機会があれば読んでみたいような気がする。