コラム 漢字と花 南天 なんてん

コラム 漢字と花 南天 なんてん

 南天は冬、小さな赤い玉のような実をつけます。子供の頃雪が降ると“かまくら〟や?“兎〟を作ったりして遊びましたが、その雪兎の目は南天の実を、尖った耳には葉を使った覚えがあります。

 唐土(中国)では南天に二つの名前がありました。

 赤い実を灯と見立てた 南天燭

 茎が竹に似ていることから 南天竹

 本邦では二つの名前に共通の南天を和名に。

 南天は「難天」の当て字から、「難を転じて福となす」・「万事が成就する」に通じる為、厄除けや縁起木として古より言い伝えられています。

 戦国時代の武将は鎧櫃に南天の葉を納め、出陣の折には枝を床に挿し軍の勝利を祈願したという。

 南天の樹は仙人の杖であり、俗説では家の床柱にすれば一家の安泰につながると。

 絵入り百科事典寺嶋良安編の「和漢三才図絵」によると、屋敷内に南天を植えると厄除けにも、又庭に植えれば火事の災難から逃れられると記されている。このため“火除け〟として植えることが盛んになったようです。

 赤飯は厄除けの効果があると思われていた赤色なことから、慶事に用いられることが多々ありました。江戸時代髪置き(男女とも赤子の時には髪を剃っていたが、三歳を限りとして髪を長く伸ばし始める。赤子から幼児になる通過儀礼)袴着の儀(男子五歳になった時、碁盤の上で吉の方向を向かせて、麻の裃を着せ左足から袴を穿かせる、幼児から童子になる為の儀式)、帯解き(女子七歳になると、着物の付け紐をとって初めて帯を使用し始めるための祝い。いずれも現在七五三と名を変えて続いています。)や、元服、結婚、昇進、栄誉に与るような晴れ舞台の時等々の芽出度い折には、ほかほかの赤飯の上に南天の葉を表向きに添えて、身近な人々に配り祝いました。

 これは縁起物というだけでなく、腐敗を抑止する効果を利用したのです。

 南天に含まれるナンジニンという成分は、熱と水分により解毒作用のあるチアン水素を発生させることが研究の結果判明している。

 植木商、三代目伊藤伊兵衛三之烝著の園芸辞典「花壇地錦抄」には藩溷(樋箱・後架・尿殿・東司・雪隠・憚・厠・御不浄等々が同意)の側に南天を植えておけば、手水鉢に水が無い時には南天の葉で手を清める事が出来る。

 昔は藩溷が母屋から離れて外に設置されていた為、老人や病人が蹌踉めいた時南天の樹に?まり転倒を未然に防げた。

 つまり不浄除けと生活の知恵から、南天を植えることをこの書物は推奨しているのです。

 現代では南天の葉や茎に、抗菌作用のあるベルベリンが含まれている事が科學的に証明されています。

 江戸時代の人々、いやそれ以前の人達の自然観察の鋭さ、そこから學び経験の積み重ねによる知恵、熟驚嘆させられます。(山田信彰)