フォト&エッセイ 自転車のある風景 第三十二回 オーストラリア横断自転車旅行

フォト&エッセイ 自転車のある風景

第三十二回 オーストラリア横断自転車旅行

楕円ギア

 オーストラリアで乗っていた自転車には、いびつな菱形のような形をした楕円形のギアがついていた。時計の文字盤でいうと、2時から3時と、8時から9時の半径が短くなった形状のこのギアは、ペダルを漕ぐときに一番脚の力を伝えやすい3時付近を短い半径で素早く踏み下ろし、力の伝わりにくい12時と6時のいわゆる上死点・下死点をその勢いで通過させるという、人間の脚の動きに合わせた形状が売りだった。自転車部品メーカーのシマノが一時期販売していたが、すぐに市場から消えてしまった。

楕円ギアではその形状に合わせて前後のギアの間のチェーンの長さは常に変化する。それを変速機が調整してくれるのだが、荒れたオフロードなどで弛んだ瞬間にチェーンが外れやすくなってしまったり、真円ギアでのペダリングに慣れていると逆に違和感を感じたりすることなどがその理由らしい。そんな楕円ギアだが、自分は好きだった。

ナラボーで日本人のサイクリストと一緒に走った時、自分はいつも通り漕いでいるのに、相手はどんどん遅れていく。長旅で脚力が鍛えられたのかと喜んでいたがそうではなかった。自転車を取り換えてみると、今度は自分がおいて行かれてしまったのだ。

彼の自転車を漕いでいると踏み込みがやけに重い。彼の自転車には真円ギアが付いていたのだ。それまで気付かなかった楕円ギアのすごさが、乗り比べたことで身をもって解った瞬間だった。

昨今のロードバイクのブームで楕円ギアがまた見直されている。しかしその発想はシマノとは真逆で、3時付近の半径を長くして力の入れにくい12時・6時を素早く通過させるように出来ている。

どちらにせよ、ギアは真円でなければいけないという固定概念から抜け出した発想に好感が持てる。自分も、自分の頭の中の思い込みを一つでも多く取り払っていく、今年もそんな一年にして行きたい。