おじょこな800字小説 第6回
「ハロウィンイベント」
作・塚田浩司
私か店長を務めている「スーパーめばえ」では、今年の十月からハロウィンイベントとして、スタッフ全員で仮装することになった。本部から指示された時は戸惑ったが、幸いこの店舗はノリの良い人たちばかりで、みんな仮装を楽しんでくれた。
古株パートの内山さんは魔女で、高校生バイトの上野君はソンビ。他にも、ナースや、アニメのキャラクターなど、皆がそれぞれ工夫してくれたおかけで、お客様からも楽しいと好評を頂いている。
中でも、完成度が高いのが社員の神戸さんによるOLのコスプレだ。こう言っては申し訳ないが普段の神戸さんは、青髭が目立つ、さえないおじさん。それが、ウィッグを被り、顔にはファンデーションを塗り目元にはラインを入れ、唇は口紅で艶やか。
思わず見惚れてしまいそうだ。さすが、仕事熱心な神戸さんだ。感心せすにはいられなかった。
概ね好評だが、トラブルもある。上野君のソンビメイクがあまりにリアルで、子供が怖かって泣き出してしまうのだ。他にも、店員に声をかけづらいなどのご指摘もあった。
しかし、こういう新たな挑戦には批判がつきもの。仕方がないと割り切っていた。
今日は三十一日。ハロウィン当日なので、このイベントもこれで終わり。大変な面もあるが、終わってしまうと寂い。これまでみんな本当によくやってくれた。私はスタッフに感謝した。
ハロウィン翌日。みな通常通りのエプロン姿で店に立った。なんだか半月もコスプレをしているとこっちの方に違和感を覚えてしまう。
私はスタッフに「おはよう」と声をかけてまわっだ。その時、品出しをしていた神戸さんを見て首を傾げた。恰好が昨日までと同じなのだ。エプロンはつけているがスカートも履いているし、ウィッグにメイクまで。ついついクセでしてきてしまったのだろう。
「神戸さん、コスプレは昨日で終わりですよ」
私は笑いながら声を掛けた。しかし、神戸さんから返事はない。もう一度言おうとすると、古株パートの内山さんに腕を掴まれた。内山さんは無言のまま、首を横に振った。