第十六回「金魚すくい」
作・塚田浩司
「金魚すくい一回お願いします」
網と交換に瞬は二百円をおじさんに渡した。
これは小学校が主催したお祭り。一人千円まで使えるんだけど、綿飴、たこ焼き、輪投げなど、なんでもあるから迷ってしまう。
「あっ、そうだ。坊主。ここの金魚すくいはちょっと変わっていてな、金色の金魚がいるだろ? あれを捕まえると、賞金千円だ」
瞬はたくさんの赤い金魚の中に、一匹だけいる金色の金魚を見つけた。
「ただなあ、すばしっこいから難しいぞ」
たしかに金色の金魚は動きが早い。
「僕、金色捕まえる。だって千円欲しいもん」
「おっ、挑戦するんだな。さすがは男の子」
おじさんからそう言われて瞬は嬉しくなった。さっそく瞬は金色の金魚を網で追いかけた。動きに合わせて集中して金魚の体の下に網を潜り込ませた。今だっ!。掬い上げようと網を持ち上げた。しかし、金魚は網を突き破り逃げてしまった。
「あー」瞬は頭を抱えた。
「坊主、もっとそっとやらなきゃだめだ。それに坊主じゃ無理だ。もうやめておけ」
おじさんに言われて悔しくなった。
「いや、まだやる」
瞬はその後、三回挑戦したが同じ結果だった。
「ほら言わんこっちゃない。あと残り二百円だろ。だったらジュースでも飲んだほうがいいぞ」
「いやだ。最後に一回やる。だってこれで取れたら千円もらえるもん。それでジュースもたこ焼きも買うんだい」
おじさんはやれやれと言いながら網を瞬に渡した。
よし、最後だ、がんばるぞ。と気合を入れたけどやっぱりダメだった。
もうこれで何も買えない。瞬はしょんぼりした。でもその時、瞬はあることを思いついた。聡太に二百円を借りればいいんだ。前に給食のプリンをあげたからきっと貸してくれる。
「おじさん。ちょっとお金借りてくる」
瞬は聡太を探しに走った。
瞬が走り去ると、的屋に扮していた教師は用紙を一枚取り出した。そこには「適性診断書」と書かれている。教師はその紙にこう書き込んだ。「将来ギャンブル依存症のおそれあり」と。
屋代中学校3年 和田有加さん