おじょこな800字小説  第2回「バスケの神様」 作・塚田浩司

おじょこな800字小説  第2回

「バスケの神様」

作・塚田浩司

 

 自粛中、ソファーで昼寝をしていた僕は夢を見た。高校時代の夢だった。


当時の僕はとにかくバスケに夢中だった。バスケ部ではスタメンにはなれなかったけど、バスケが好きだったから毎日の厳しい練習も苦ではなかった。


それに、僕はマネージャーの麻央に恋をしていた。麻央は、笑顔が可愛くて、みんなのマドンナ的存在。部員全員が麻央にいいところを見せたくて必死にプレーしていた。


 ある日の放課後、僕は誰もいない体育館に麻央を呼び出し、ボールを抱えて叫んだ。


 「スリーポイントシュートが、五本連続で決まったら僕と付き合ってくれ」突然の告白に麻央は、「え、ちょっと待ってよ」と戸惑ったが、かまわずに僕はシュートを放った。

すると、孤を描いたボールはすっとゴールに吸い込まれた。


 我ながら強引な手口だと思う。そもそもこの告白が成功する見込みはなかった。

麻央はマドンナで、僕はベンチ要員。誰がどう見ても釣り合っていない。それなのに、五本連続でシュートが決まれはこの恋が実ると、当時の若くて馬鹿な僕はそう思い込んだ。


 実力以上のものが発揮された。まるでバスケの神様がのり移ったかのように、その後の三本のシュートもすべてが決まった。あと一本だ。その間、麻央は黙ったまま僕を見ていた。


 僕は緊張しながらボールを構えた。そして手首をしならせ、指先からボールを離した。

 「ねえ、起きて。ブレイブウォリアーズが」 妻がソファーで眠っている僕の体を揺すった。夢の続きがたかったので不快だった。
 「なに、ウォリアーズがどうしたの?」


 僕は目を擦りながら妻に訊いた。ちなみに妻も僕も熱狂的ブースターだ。
 「ウォリアーズの来季B1昇格が決まったよ」 「えっ本当か?」僕は驚いて目を見開いた。


 すると、僕の目に妻が映った。夢の中のマドンナよりもずっとずっと眩しい笑顔だった。