おじょこな800字小説 作・塚田浩司 第三十五回「電話でお金詐欺」
老人はかつて名の知れた会社の社長だった。裸一貫から会社を立ち上げ、「工夫しろ」を社訓に会社を成長させてきた。しかし、老人が手塩にかけた会社は数年前に倒産した。さらに後継者の息子は老人の指導に耐え切れず、まだ景気の良かった時代に会社を飛び出した。今振り返ると、期待のあまり厳しくしすぎたのだろう。
妻にも先立たれ、老人は孤独だった。そんな老人のもとに、一本の電話がかかってきた。
「今日は渡辺様にとって耳よりの情報があります」
またか。老人はうんざりした。ここ数年、年寄りを狙った電話詐欺が横行している。この前は、「宝くじが繰り上げ当選しました」と電話があったが、宝くじなど買った覚えはない。すぐに詐欺だと気付き、電話を切った。ここ数日、特にこの類の電話が多い気がするがどれもこれも似たり寄ったりの手口だ。
「工夫しろ」が口癖だった老人からすると、いくら詐欺とは言え、あまりにもお粗末な手口には腹が立つ。今回はどんな内容だろう。老人は聞くだけならタダだと思い、耳をすませた。
「渡辺様は株などご興味ないですか?」

またありきたりな策だ。少しはこっちの気持ちを惑わせるような知恵はないのか。
「興味ない」と老人は怒鳴り、電話を切ろうとした。すると「ちょっと待ってオレ、オレ」と男の大声が聞こえて受話器を耳元に戻した。
「実はオレはあなたの息子なんです」
何? 今度はオレオレ詐欺か。一番ありきたりな手じゃないか。馬鹿らしい。
「もっと工夫しなさい、情けない」
老人は力いっぱい電話を切った。
※
老人から電話を切られた男は深いため息をついた。起ち上げた会社が軌道に乗ってきたから親父に仕送りをしたかった。でも親父は頑固だから、裏切り者の俺からじゃ金を受け取らないだろう。そう思ったから、あの手この手を考えて、なんとか親父に金を受け取ってもらおうとしているのに、最後には説教までされてしまった。
「工夫しなさいって」いかにも親父らしいや。