おじょこな800字小説 第五十回「霊媒師」
俺が霊媒師になったのは、ほんのいたずら心からだった。きっかけは、知人の女性が霊に悩んでいたことだ。住んでいるアパートの廊下で、誰もいないのに足音がして、夜も眠れないと嘆いていた。
そこで俺は「実家が神社で、そういうのには子どものころから慣れている。任せてくれ」と法螺を吹いた。軽い冗談のつもりだった。彼女も最初は戸惑っていたが、藁にもすがる思いだったのか、「じゃあお願いしようかな」と家まで案内してくれた。もう引っ込みがつかなくなった俺は、「霊よ、ここはお前の居場所ではない。直ちに去れ、きえーい」と唾を飛ばしながら熱演した。当然、出まかせで効き目などあるはずがない。
翌日、彼女から電話があった。クレームだろうと渋々出ると、「物音がしなくなった」と言うのだ。信じられない話だった。俺に力などあるはずがない。考えた末の結論はこうだ。霊など実際には存在しない。本人が作り出した幻であり、俺の除霊を信じたことで「消えた」と思い込んだのだろう。
彼女からはお礼に一万円をもらった。これは商売になるかもしれない。味をしめた俺は衣装と道具をそろえ、霊媒師として活動を始めた。
信じがたいことに、俺の除霊は評判を呼び、今では予約の取れない霊媒師とまで言われる。サラリーマン時代よりずっと高い収入を得るようになった。
だが、でたらめでも一日に何軒も回れば、疲労とストレスはたまる。そのせいか、最近は肩が重い。整体やマッサージに通っても治らない。もしかして、本当に霊に取りつかれたのか。いつしかそう考えるようになっていた。霊を信じてはいなかったが、もし存在するなら、仕事の現場で取りつかれても不思議ではない。

肩の痛みに悩んでいたある日、偶然、飲み屋で霊媒師を名乗る女に出会った。その女は霊媒師というより、どこにでもいる若いOL風だった。しかし、ダメでもともと、俺はその霊媒師に依頼してみることにした。
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私が霊媒師になったのは、ほんのいたずら心からだった。たまたま飲み屋で出会った男に、でたらめの除霊をしてみた。
翌日、その男から電話があった。クレームかと思って渋々出ると、「肩が軽くなった」と感謝された。しかも、その男は報酬として一万円をくれた。これは、商売になるのかもしれない。
その日以来、私は霊媒師を名乗るようになった。
著者紹介
塚田浩司/柏屋当主。屋代出身。
本紙第4号(2020年5月)から好評連載中の「おじょこな800字小説」が第50回を迎えました。作者の塚田浩司さんからコメントをいただきました。
「連載を始めた当初はコロナ禍で、人と会うことも少なく、作品への反応もほぼゼロでした。しかし、だんだんと「面白い」「楽しみにしている」と声をかけて頂けることが増えてきました。その声が励みになっています。これからもよろしくお願いします。」
