おじょこな800字小説 第四十一回「詐欺だけに」
「このところ犯罪が横行していまして、その犯罪グループのリストの中におばあちゃんのお孫さんの名前があったんですよ」
警察官役の俺が、お婆さん役の笠置に言った。すると、
「おいっ、お前。なんだ、その棒読みは。そんなんで警察官の役が務まると思うか。もう一回最初から」
教官が俺を怒鳴りつけた。俺はため息を飲み込み、一から芝居を始めた。
「まあ、そんなに落ち込むなよ。まだ入って三ヶ月だろ?大丈夫だって」
訓練後、喫煙所でタバコをふかしながら同期の笠置は俺を慰めてくれた。
「そうだけど、それでも自信がなくなるよ」
俺はタバコに火をつけるのも忘れてうなだれた。
詐欺学校に入学して三ヶ月。毎日のように芝居の練習をしている。今日は警察になりすました詐欺のトレーニング。昨日はオレオレ詐欺の電話練習。ときどき自分は劇団員なのではと思えてしまう。
「俺、本当に一人前になれるのかなあ」
俺は天井を見上げつぶやいた。
「大丈夫だよ。俺たちが教わっているのは超一流の講師だ。特に校長は伝説の人なんだから」
俺は校長の顔を思い浮かべた。校長の顔は入学式の時に一度見たきりだ。
「なんせ、オレオレ詐欺を日本で一番最初に始めたのが校長だろ。なんだかんだいって、いまだに通用する技だもんな、凄いよ校長は」
煙越しに笠置のうっとりした顔が見える。
「でもさあ、あれって本当なのかな」
俺はタバコに火をつけながら呟いた。
「本当って、なんだよ、校長を疑ってるのかよ」
まるで、推しのアイドルを侮辱されたかのように笠置は鋭い目つきで俺を見た。
「いや、だってさ、最初に始めたってそんなの証拠ないだろ? 資料として残っているわけもないし」
「まあ、たしかにそうだよな」
笠置は表情を変え、納得した表情を見せた。前から思っていたが笠置はよく言えば素直、悪く言えばバカだ。そんな笠置は続けた。
「でもよう、もしあれが嘘だったらひでえよな。だって俺はその噂を聞いてこの学校に入ったんだぜ。それこそ詐欺だよ。詐欺学校だけに」
笠置が言うと、俺は噴き出した。
「笠置、お前、上手いこと言うなあ。でも、それを言うなら、これだけ高い学費払っているのに、もし俺たちが立派な詐欺師に慣れなきゃそれも詐欺だよな」
「詐欺学校だけにな」
煙草の煙がもくもくと上がる中、俺たちは腹を抱えて笑った。
著者紹介
塚田浩司/柏屋当主。屋代出身。