おじょこな800字小説 第7回「森の中のアトリエ」作・塚田浩司

よみきりショートストーリー おじよこな800字小説


第7回「森の中のアトリエ」


 森の中に一軒のアトリエがある。


周辺には色とりどりの花が咲き、犬や猫、うさぎにリスが楽しそうに走り回っている。


 アトリエの中には絵描きのお姉さんがいて、大きなキャンバスにもくもくと絵を描いている。お姉さんの描く絵はどれも素晴らしく、動物は今にも動き出しそうだし、花からは良い香りがしそうなほどにリアルだ。


少女は小窓からこっそりと絵描きのお姉さんの姿を見るのが大好きだった。
 ある日、いつものように小窓からのぞいていた少女は、不思議な光景を目にした。


 お姉さんはいつものように、数種類の絵の具を使い、キャンバスを色彩豊かに染めていく。真っ白だったキャンバスが、動物や花片で賑やかになった。


 そしてその瞬間がおとずれた。お姉さんが完成した絵に向かい、ふーっと息を吹きかけた。すると、動物たかが絵の中から飛び出し、森の中へと走っていったのだ。犬はワンワンと吠えながら走り鳥はピーピーと空へ羽ばたいていった。


目を奪われた少女は驚いたと同時に怖くなった。瞬間的に「見てはいけないものを見た」そう思ったのだ。急いでその場を去ろうとすると、ガタンと音がしてしまい、その音でお姉さんは振り返り、目が合ってしまった。
少女の胸は今にも張り裂けそうだ。


 「勝手に見てごめんなさい。でも、このことは誰にも言いません」 少女が謝ると、お姉さんは、「そうしてくれると助かるわ」 と言いながらフフフと笑った。その穏やかな表情に少女は胸をなでおろした。
 「久しぶりね」
 お姉さんに声をかけられた。
 「お姉さん。私のこと知っているんですか?」
 少女としては思い当たる節がなかった。お姉さんと話しだのはこれが初めてのはず。


 お姉さんは少女の問いには答えず、真剣な顔で少女の顔をじろじろと見ている。少女はなんだか落ち着かない気持ちになった。
 お姉さんはうーんと唸りながら口を開いた。


「その目、もう少し大きく描いてあげればよかったかしら」