おじょこな800字小説  第二十九回「クリスマスプレゼント」  作・塚田浩司 

おじょこな800字小説  第二十九回「クリスマスプレゼント」  作・塚田浩司 

  第二十九回「クリスマスプレゼント」 

 パパとデパートにクリスマスプレゼントを買いに行った。 

「あった。パパこれ欲しい」 

 おもちゃ売り場に駆け込んだ僕は大きな箱を両手で抱えた。それは、最新のゲーム機だ。パパはゲーム機の値段を確認すると真顔で僕の顔を見た。 

「春樹、買ってあげるからちゃんと勉強するんだぞ」。 

「わーやったーありがとう。勉強頑張るよ」 

 サンタの包装紙に包まれたゲーム機を手にした僕はご満悦だった。 

「春樹、パパはお酒を買いに行きたいんだけどいいかい?」 

「うん。じゃあ僕はお菓子売り場に行く。あっ、そうだ。サンタさんの靴のお菓子を買ってもいい?」 

「ああいいぞ。じゃあゲームを持つよ。重いだろ」 

「いいや」僕はそう言うと、お菓子売り場へ走った。 

 デパートを走りながら、僕はどこかに同級生がいないか探した。このゲーム機は発売したばかりだし、とても高いから持っているのはきっと僕だけだ。誰かに自慢したくて仕方がなかった。 

 お菓子売り場に付くと、願った通り、そこには同級生の健くんがいて、真剣な顔でお菓子を選んでいる。どうやら僕と同じでサンタの靴のお菓子を買おうとしているらしい。手には何も持っていないから、きっとこれからオモチャを買いに行くのだろう。僕は声を掛けようと健君に近づいた。すると、 

「ねえ、お父さん。これ買ってよ」 

 健君が近くにいたお父さんに声をかけた。 

「ああ、いいよ。その代わりちゃんと勉強するんだぞ、あとお母さんの手伝いもな」 

「やったー。ありがとうお父さん。勉強もお手伝いも頑張るね」 

 健君ははじけるような笑顔でガッツポーズをした。その時、僕は自分の勘違いに気づいた。健君はこれからオモチャを買いに行くわけじゃない。健君にとってはサンタの靴のお菓子がクリスマスプレゼントなんだ。僕は何故だか胸が苦しくなって、健君に声を掛けずにその場を離れた。 

「あれっ、春樹。サンタの靴はいいのか?」 

 お酒売り場で合流するとパパが僕に訊いた。 

 僕は「いいや」と言ってうつむいた。サンタの包装紙がクシャッとしていた。