おじょこな800字小説  第十九回「男の宿命」 作・塚田浩司

おじょこな800字小説

第十九回「男の宿命」

作・塚田浩司

 尊敬する父はいつもそう言っていた。男というのは女性の目を意識するがゆえに結果を出す。政治家やスポーツ選手、弁護士や医者もそうだ。それに子孫を残すという観点から見ても、これは人間だけではなく、女からモテることは動物の、さらに雄の宿命だと父は力強く語った。その言葉通り、幼い俺から見ても、父はすべてを兼ね備えた魅力的な男だった。俺は父の言葉を胸に、物心ついたころから男磨きに励んでいた。モテるために、俺は幼稚園のころにはすでに身だしなみには細心の注意を払っていた。

 そして小学生時代、足の速い男子がモテると知り、神社の階段を上り下りするなど努力を重ね、強靭な足腰を作りあげ、誰よりも足の速い男になった。

 中学に上がると、不良がモテる条件に加わった。危険な香りを持つ男は魅力的らしい。俺は髪を染め、大股で歩いた。

 中三の頃、先を見据えると、不良的要素だけでは限界があると悟った。やはり学歴と深い教養が必要だと感じた俺は、猛勉強をして町で一番の進学校に合格した。

 時は過ぎ、高校で進路を選択する時期になった頃、人の心を掴むためには心理学を学ぶ必要があると思い、有名大学で心理学を学ぶために受験し、当然合格した。

 学生時代、努力を重ね、得られるスキルはすべて身に着けた。完璧だ。あとは社会に出て実践するのみだ。俺はすぐに女性に近づいた。

 思った通り、これまでに得たスキルは大いに役立った。幼いころから磨いたルックスと中学の頃に得た危険な香り、高校と大学で学んだ教養や心を掴む掌握術は女性を惹きつけメロメロにした。しかし、モテるが故に、時に女性から恨みを買うこともある。怒った女性に追いかけられるなんてこともしばしばある。そんな時は、小学生の頃に身に着けた走力が役に立った。

 まだ駆け出しではあるが、今まで通り努力を重ね、スキルアップをしたいと思う。そして上り詰める。尊敬する父と同じ、結婚詐欺師と言う道で。