おじょこな800字小説  第十五回「スイカ」作・塚田浩司

おじょこな800字小説  第十五回

「スイカ」

作・塚田浩司


 今年もスイカが送られてきた。私の実家はスイカ農家なので、夏になると必ずスイカが届く。
一人で一玉なんか食べられるわけがない。そう思いながらも箱からスイ力を取りだした。一人ぼっちの部屋だと、とても大きく感じる。去年の夏にはそんなこと思わなかったのに。
一ヵ月前、同棲していた大地と別れた。三年も付き合っだので、そろそろ結婚かと思っていた矢先、向こうから別れを告げられた。
彼はスイカが大好物だったから縞模様を見ていると、嫌でも彼を思い出してしまう。
付き合う前、私は実家のことを大地に話した。

 「えっまじ。俺スイカ大好物だよ。じやあ付き合えば毎日スイカ食えるのかな」大地は冗談めかして言った。でも、その後、私たちは本当に付き合うようになった。 同棲中、夏には毎日のようにスイカを食べていた。そろそろ飽きないのかなあ、と心配したが大地を見るといつも幸せそうにかぶりついていた。私はその光景がとても好きだった。


 そんなある日、私はスイカを食べている大地に、幼い頃から思っていたことを打ち明けた。
 「私さあ、スイカ割りが本当に嫌いなんだ。夏になると、海とかお祭りとかでやるでしょ。やっば私、スイカに育ててもらったようなものだから、粗末にするような扱いが嫌なんだよね」
 私か言うと、大地は顔を上げた。「それわかる。うちも米作ってるから、茶碗に米粒ついてるの見ると嫌な気持ちになるもん」 スイカ割りの話を誰かにするのは初めてだったけど、まさか共感してもらえるとは思わなかった。なんだかこの人とならすっと一緒にいられる。そんな気がした。
 大地の顔を思い出すと、また悲しみが込み上げてきた。一体、私はいつまで大地を引きするのだろう。そろそろ前を向かなきゃいけない。 私は立ちあがり台所に向かった。そして棚にあった、すりこぎを手に取った。