おじょこな800字小説 第二十三回
「ゾンビ」
作・塚田浩司
学園はゾンビに支配された。最初は一体だったゾンビが教師や生徒に噛みつき、それが次から次へと伝染し、今は校舎の中も外もゾンビだらけだ。
おそらく生き残っているのは俺と学園一の秀才清水だけ。そんな俺たちは今、理科室に身を隠している。共に人体模型の陰に隠れている清水がささやくように語りかけてきた。
「小川。人類っていうのはな。常識を疑って新たな挑戦をして進歩してきたんだ」
「それがどうしたんだよ」俺は小声で聞いた。
「一つ思ったんだけどさ、ゾンビに噛みつかれた人間はゾンビになるだろう? 逆に人がゾンビに噛みつくとどうなるかなあ?」
「知るかよ。いや、というかそんなのおかしいだろ。常識的に」
人間がゾンビに噛みつけばゾンビが人間に戻るとでも言いたいのだろうか。
「常識か…… 常識を疑え。小川!」
突然清水が叫んだ。清水の力強い目に、俺は圧倒された。そして、あることに気付いた。
「おい、清水。まさか俺にゾンビに噛みつけに行けと言ってるんじゃないよな?」
俺は清水に尋ねた。違うと言ってほしかった。
「なあ、小川。人類の進歩はな。人の命を引き換えに、つまり犠牲の上で成り立っている」
「だったらお前が……」
「俺は足が遅い。きっとゾンビに噛みつく前に捕まる」
清水が食い気味に言った。まあ、たしかに清水よりは俺の方がゾンビに噛みつくことができそうだ。どっちみちもう助かりそうもないし、可能性に賭けてみるか。俺は窓の外にいる大量のゾンビを見てうなだれた。
「さあ、いけ。ちょうどゾンビがお出ましだ」ゾンビが理科室に入ってきたタイミングで、清水が俺の背中を力強く叩いた。もうやけくそだ。俺は全力でダッシュした。ゾンビは俺に気付くと、襲い掛かってきたが、上手くかわして背後に回りこんだ。そしてゾンビの首を力いっぱい噛みついた。
清水から人類の進歩についての名言を二つ教えてもらった「常識を疑え」そして「人類の進歩は犠牲の上で成り立っている」
俺はゾンビに噛みついた。つまり「常識を疑う」ことが出来たのだ。ただし「犠牲」にもなってしまったけどな。