ちくま未来戦略サロンVOL.32千曲地域と国土交通行政 講師前・国土交通省事務次官 和田信貴さん(千曲市出身)

ちくま未来戦略サロンVOL.32千曲地域と国土交通行政 講師前・国土交通省事務次官 和田信貴さん(千曲市出身)

(一社)ちくま未来戦略研究機構ではちくま未来戦略サロン・特別講演会を10月25日に開催しました。今回の講師は千曲市八幡のご出身で昨年まで国土交通省事務次官を務められた和田信貴さんです。国土交通省が所管する様々な国の行政事務の紹介とともに、千曲地域における課題と展望を語って頂きました。講演内容の一部を掲載します。

経歴の紹介

私はここ千曲市の八幡というところの出身でございます。私の名前はここにありますように「和田信貴」と言います。信貴っていう名前はですね、信州を貴ぶっていう意味なんですよ。父親がかなり無茶振りだと思うんですけども(笑)母は安曇の方ですから、両親ともに信州ということもあって、血は100%なんで故郷という思いを強く持ってこれまでほぼ60年ほどの人生を歩んできたというものでございます。

ご紹介にありましたように、昭和の終わりに旧建設省、今の国土交通省に入りました。約40年勤めて、1年前の7月に事務次官という職を最後に退職しております。国土交通省の所管分野は非常に幅広くございます。時間もないと思いますので、関係のあるところを中心にお話しさせていきたいと思います。

千曲市の交通行政の状況

まず道路の分野でございます。高速道路関係が、割とお付き合いの最初の頃から長かったのかなと、姨捨のスマートインターの辺りから本格的にいろんなお話をこの地域の方々とさせていただくようになったかなと思っています。姨捨のスマートインター自体は、平成の17年に社会実験という形で始まって常設化しました。今でも本当にあってよかったと思いますし、必要だと思っていましたので。まだフル規格化という課題はもちろん残っていますけれども、平成30年の時に我々も「とにかくやりましょう」ということで、24時間化ということになった次第です。

またしばらくしまして、屋代の方のスマートインターですね、これも2年前ですか。国土交通審議官の時に準備段階調査というのを国交省ですることに決めました。これは実際にもう作りますよということを前提に調査していくものですから、事業化と言っていいような段階です。

千曲川の流域ということで、この辺ある意味水害とか災害については気になる土地柄であるのも残念ながら事実です。そういう意味では更埴インターのところは、屋代インターのところに比べると、やはり水害なんかがあった時には心配なところでございますし。また更埴のジャンクションの形が特に大きな車になればなるほど使うのに苦労すると。別に決して危ないという訳ではないんですけれども、過去にも事故があったりしていますので、そういう意味ではああいったところで新しくスマートインターという形で。もちろんお金がかかりますし、ご地元のアクセス道路や何かのご負担があるんですけれども、地域にとって非常に意味があるんじゃないかなということで、令和5年の新規事業化ということに踏み切っていった訳でございます。

道路を整備すれば必ず企業が張り付くというほど世の中簡単ではないのも事実ですけれども、そういった準備、整備をしないとスタート地点に立てないというのもこれもまた事実だと思います。一生懸命やるというところからしか展開していかないと思いますので、こういった全体の道路ネットワークの整備、そしてその先にある企業誘致、物流の誘致、こういったことにもこれからしっかりとまた応援させていただきたいなと思っています。

道路の話で言いますと、国道18号のバイパスですね。今それこそ八幡の辺りのところだけ開通していて、私の地元だからやった訳じゃもちろんございませんけれども(笑)、中途半端な形になっています。稲荷山のところがどうしてもいろいろ地下掘ったら出てきてしまったり、トンネル工事が難しかったりということで時間がかかってしまいましたが、だいたい目処が立ったと思っていますので、こっちの方がまず先に開いていくことになると思います。それからちょっと離れて坂城の方のところも鋭意やっていますから、こっちも時間はまだ少しかかりますけれども、時間の問題になってきているのかなと思います。

道路というのはやっぱり全部というか、つながって初めて効果があります。当たり前ですよね、真ん中だけとか端っこだけだと意味がないですから。財政再建みたいなことを言われて久しいんですけれども、国交省も「とにかく金大事に使え」と「使った分だけメリットがあるようにしろ」と強く財政当局から言われ続けてきて。そうするとですね、なるべく早く供用できるところ、そして供用できるところの区間を工事したら、その区間をとにかく早く作り上げて、そこがまた使えるようになったら次の区間へ行くという仕事の仕方をしています。これは別にこの18号バイパスだけじゃなくて、日本全国どこでもそういう考え方をやっています。18号バイパスクラスになると大体1キロ作るのにですね、場所によっても違いますが、50億円くらいかかります。結構な金額ですよね。18号バイパスなんかは高速道路ほどじゃないですけれども、1キロ数十億という単位でかかってきますので、これもやっぱり大事に大事に使っていかなきゃいけないかなと。

深刻な人口減少問題

国交省に関連するところは、話をしだすとキリがないがないんですけれども、とりあえずそのくらいにしておいて。これからの千曲地域ということで地域にいらっしゃる皆様方で、いろんなことを考えていく中で視点として持っていただいたら良いんじゃないかなということを、3つほど申し上げたいと思います。

1つはですね、これは言い古されていることだと思いますが、若年層が減っている。特に若年の女性ですね、こういった方が減っているということ。それと、高齢層とのある意味考え方がかなり…分断とは言いません、断絶とも言いませんが、かなり思っている以上に、間が広がっているんじゃないかな、ということです。私なんか今61歳ですから還暦過ぎて、そういった意味では、1年目の赤子みたいなものなんですけれども、若い人からするとですね、全く違った価値観を持っていたんだと思いますんで、ちょっと反省も込めて申し上げるんであります。

日本全体で言っても、出生数はものすごい減っています。もうご存知かと思いますが、去年1年間で日本全国で生まれた赤ちゃんが68万人しかいません。今年はたぶん65万人割ります。100万人初めて割ったのは2016年ですが、9年間で3分の2に減っちゃったんです。すごい減り方ですよね。その昔見てみますと一番多かったのは、1949年に生まれた270万人です。4分の1になっちゃったんですよ。今年生まれた方、去年生まれた方の数というのは、外国人は別ですけど途中で増えることはありませんから。もうこの人たちでどうしていくかということを考えるしかないんですね。

長野県内の状況

例えば、長野県の中で見てみますと、今年の4月で0歳の方、1万275人、ちょうど1万人くらいです。若い人のところをもう少し見ていくと、大体高校生までは地元にいる人が多くて、そこから専門学校行ったり大学行ったりして、東京とか違う場所に行ったりします。私が仕事を始めた頃は、東京へ出ていくと1回出るけれども、東京から学校を卒業して戻ってくる人も多少多かったし、さらに言うと、1回東京で就職したけど、30歳直前くらいで戻ってくる。35歳くらいまで戻ってくる人も、それなりにいて人口の動きがある。出入りが多少帳消しになった。

今の長野県の数字を見てみましょうか。17歳の人は長野県に1万8497人います。これは多分生まれた人数の方が、このまま大体高校まで来ている。17歳ですから高校2年生ですね。これがその後、学校でいろんなところに行って、24歳の時は1万2951人。6千人も減っているんです。戻ってきている数が少ない。さらに言えば、この24歳は男性と女性で、男性の方が1000人も多い。とにかく女性が少ない。60歳過ぎてまた戻ってくる人はいるんですけれども、若いところで戻ってくるというのは、35歳くらいまで見れば大体戻り切るんです。本当に20歳のところの女性が少ないというのは顕著に出ています。

世代間の意識の違い

ずっと見てて思ってきたのは、やっぱり30歳代以下の人と我々の世代くらいの人、それから上の人というのの考え方の…まあ分断って言葉がよくないんですけれども、違いといったのは想像以上に大きいんじゃないかと思います。若い人は東京に集まっていますけども、東京だけの話じゃないと思います。全体的には30年間日本経済、デフレ経済で停滞してきた中で、就職もままならなかった人が多いです。そこにきて急激な物価高が入ってきていますから、やっぱり若い人たちのマインドとして当局、大きな組織が言うことって信じられない。待つとか堪えるとか、そんなことしたって無意味だ。ないしは、そんな余裕はない。だから自分の本当に身近なところにどうしても関心が集まる、というのはまず潜在的にはすごくあると思います。その上で、デジタルとかスマホですね。デジタルネイティブと言いますか、スマホネイティブというのは相当また大きく影響していると思います。

スマホネイティブとの接し方

スマホ世代ってのは多分今後続いてきます。ですから、いかがなものかというところもありますけれども、自分たちもそれに合わせていくしか多分ないし、そうでないと採用できませんし、地域社会もちゃんと回っていかないと思います。やっぱりそういうスマホネイティブである故っていうところもあると思うんですけれども、マニュアルとか、指示待ちみたいなことは非常に多く、言われたことをやるというか。それはやっぱりだいぶ昔とは違っているなとは思いつつも、でもそれにある程度合わせていかなきゃいけないのかなと。そうしないと「指示がなかったからできません」とか「指示がいい加減だからハラスメントだ」とかなんとかという世界に入っていきますから。地域社会でもハラスメントだというふうにはならないとは思いますけれども、何が起きるかというと、この地域社会には居づらいから出ていくという行為。若い人たちは別に出ていくという選択肢を常に持っているんでですね。そうすると実はさっき言ったような人口構成ですと、残された方が困っていく。これは会社でも国交省でもそうなんです。組織が持っている方が困っていっちゃうんですね。だからある程度合わせていくしかない。

女性が東京に出て行く理由

本当に人が減ってきているので、人じゃなくてできるところを考えていかないと、もう回らなくなっているなというのは、東京でもそういう感じだと思います。今、若い人の話をしましたが、若い女性の話はなおさらそこのところは、はっきり出ていると思います。すごく立派なことをしたい訳ではないけれど、やっぱり自分の人生の生きがいとか、やった仕事、それなりに評価されたいとか。いわゆる嫁業、家事、こんなことばっかりやるのは嫌だという思いを持っている。私は地方創生の仕事もしていたので、いろいろアンケートを取っていましたが、表ではやっぱり東京に行く理由は、楽しいものがないからとか、就職先がないからとか言うんですが、個別にアンケートの取り方を面接官に面接してもらうと、やっぱりそういうことを言われる方はそれなりに結構いました。そういう人たちはやはり地域の閉塞性を感じて東京に来てそのまま東京に残って…もちろんこういう人ばかりではないと思いますけれども、そういう人も一定程度いると思います。

AI活用の現状

それから2つ目はですね、これから先、ますますAIとロボットというのはどんどん進化していきます。びっくりするくらい進んでます。さっき国交省でも国会の答弁やなんかの草案はチャットGPTで、と申しましたけれども、その中でもですね、どんどんやってきています。例えば税務調査。AIにあらかじめ覚えさせておいて、やばそうな企業の特性っていうのは当然ある訳ですね。それから弾かれる訳です。で、税務調査に「ここをちゃんと行ってください」と、AIから指示が出ると。国税庁もITの専門職を採り出しました。そのくらいやっぱり変わってきています。それから物流倉庫なんかも新しいやつが、本当に自動の仕分けで、ロボットが全部動いて物を配置して、それもいろんな情報管理のシステムと連動しています。

そういう意味では普通の事務とかOLとか、もう死語になっていくと思います。普通に安定した仕事というのは、これは別に地方だけでなく、東京も含めてどんどんなくなります。本当に経営判断するようなところが、いわゆるエッセンシャルワーカーと言われるところです。建設業とか農業とか、食品とか介護とか、こういう本当に現場のところの仕事というのは、やっぱりいろんな処遇も改善して…多分必然的に改善されるんだと思いますけれども、地域社会の中での認知が変わっていかないといけないところかなと思います。

人が一番大事

これは3つ目の話ですけれども、やっぱり最終的には、地域で頑張る人こそ大事だと思います。自ら労を厭わず、動いて人と人との調整をするという。こうしたらいいなというのは、どこの地域でも、それなりにいらっしゃるんですけれども、やっぱり最後まとめる、動く、一緒にやっていこうよという人がいる地域は、いろいろ見ていて大体成功しています。観光でも、普通の地域の町づくりでも、最後は人だなというのは、これをそう言ったら元も子もないよということかもしれませんが…さっきのインフラの整備、スマートインターとかいろんなことを応援させていただきました。で、最後その場で、どれだけ誰が頑張って、一緒にやっていこうか、地域全体でまとまってやっていく以外ないんですけれども、その核となる人が本当にいてやっていくということ、これが大事だと。

官と民の連携を

私はやっぱり、民間でのそういった取り組みというのは、すごく大事だと思います。民間の取り組みというのは、行政がしっかりと支える。そういうスタンスもすごく大事だと思います。そうするとですね、よくある議論は、なんでこの民間の事業にだけ支援するんだとか、てこ入れするんだ、という声が出てきますけれども、それを言っていると、結局何も進まないし、良いことが潰れていきます。悪平等になってくる。政治の世界では本当にいろんなことを考えなければいけなくて大変だとは思いますけれども、やっぱり、頑張ったところは頑張ったなりの報われ方。そして、だからこそ次につながってくるということだと思います。

地方創生とか地域づくりは公だけの仕事だということでは当然ないと思いますので、やっぱりうまくいっているところは民の力がしっかりあって、そこにうまく効果が絡んでいるということだと思います。

(了)

和田信貴さん 

国道18号バイパス (稲荷山~塩崎区間)

■講演では道路以外の国交省所管業務も紹介。和田さんが事務次官当時に経験した能登半島地震への対応や、国土交通省緊急災害対策派遣隊「TEC‐FORCE」の活動内容、地震や豪雨等の災害予知の難しさなどに話が及んだ。

講演後には質疑応答の時間も設けられた