日本遺産に認定された 「姨捨棚田」、作者が初めて描いた故郷の光景。黄金に輝く稲穂の波、刈り取られた棚田、はぜ掛け、三筋の煙。よく見ると畔には吾亦紅、そして豊かな実りを歓喜するが如くコスモスが咲き誇っている。稲穂も畔も棚田石森も全てが豊穣の色、黄金に包まれている。
人物は見えないが人の気配があり、穏やかで平和な暮らしの営みを感じる。姨捨棚田は幾世代にもわたって多くの人の汗と力、涙と喜びで築かれてきた。この絵はその時間と空間を超え九大宇宙の実りを描いた、いわけ歓喜と感謝の絵だ。
コスモスは今を生きる私達だろうか?「豊穣の棚田」を見つめている。「未来にこの穏やかな豊穣を繋げたい」そんな思いが胸に湧き上かって来たのだろう。清澄な画面の中に作者の強い意志が伝かってくる。
かつて松尾敏男画伯が作者の内閣総理大臣賞受賞に際しこのように評した。 「作者は含羞の人である。作もまた決して声高に主張せず控えめな心情そのままに澄んだ空気を穏やかに表出する・・・世事に惑わず、流行に流されず己の世界を信じ一貫して澄明の世界を求め続けてきた未の一作と言っていいだろう」この作もまた然りである。 (アートサロン千曲 西津賢史)