ウッドハウスの世界(9)森村たまき

 こんにちは、イギリス生まれのユーモア作家、P・G・ウッドハウスの翻訳をしております、森村たまきです。今回もロードアイランド州の州都プロヴィデンスで開催された、アメリカウッドハウス協会のコンベンションの話の続きをいたしましよう。 

金曜日の早朝、たくさんのウッドハウス仲間を満載して出発したバスツアーの行き先は、海岸に立ち並ぶ豪邸の数々で知られたニューポート。イギリスの古城やカントリーハウスとはまた違った、スケールの大きいアメリカ 「金ぴか時代」の遺産です。十九世紀末、ニューヨークの鉄道王、鉄鋼王、石炭王、貿易王……といっか想像もつかないくらい圧倒的な大金持ちかちかこの地に夏の別荘を構えたのです。

 若さウッドハウスは二〇世紀初頭のニューヨークで駆け出しの作家として小説を書いた0ミュージカルの作詞をして過ごしました。また、ジャズーエイジ、狂騒の二〇年代には売れっ子作家になっていましたから、こういうお屋敷で開催されるパ上丁イーに参加することもあったのです。 私たちが訪問したのは、有名な『プレイカーブ』、鉄鋼王ヴァンダビルト宗の巨大かつ壮麗なイタリマルスにツサンス様式の夏の家です。海岸に続く広い広い緑の芝生、ヨーロッパから運ばせた各種大理石をふんだんに使用し、豪奢を極めた内装。アメリカの富の集積に圧倒されます。さらにもう一箇所、私たちが訪問したのは、アストール宗の『ビーチウッド』。十九世紀ニューヨークの社交界に女王と呼ばれ君臨したアストール夫人は、真にに社交界にふごかしい名士は四百人しかいない、と『ザーフォーハンドレッド』と名づけられた名簿を作り上げました。アストール夫人はニューマネーの鉄鋼王などは上流社交界にふさわしくないと考え、上記ヴァンダビルト宗はなかなか仲間に入れてもらえなかったのです。  『ビーチウッド』はガイドの案内で回るのですが、私たちはこの邸宅に招かれた上流『フォーハンドレッド』の皆さんという設定で、当時この邸宅に出入りした名士に扮しか俳優の卵と思われる方が案内をしてくださいます。


私たちのガイドはなんと作曲家コール・ポーター!ウッドハウスとはミュージカル『エニシンブゴーズ』等で作詞作曲のコラボをした大作曲家です。ポーター氏はピアノを弾いて、最新作品『ナイトーアンドーデイ』を歌ってくれました。 その晩のレセプションではウッドハウス作品に依拠した才リジナル寸劇弔歌、朗読などの披露があり、私もウッドハウス作詞の名曲『ビル』を歌って拍手喝采を浴びました。翌日土曜日はコンベンションの白眉たる研究報告会で、在野のウッドハウス研究家からか日頃の研究を発表します。これについてはまた次回、お話ししましよう。
 【写真】ボストンのランドマン夫妻と。夫人の伴奏で『ビル』を歌いました