「長野電鉄百年探訪」公文書・報道・記憶でたどる地方鉄道の歴史~ちくまブックレビュー

「長野電鉄百年探訪」
公文書・報道・記憶でたどる地方鉄道の歴史
    今尾恵介著 信濃毎日新聞社刊

 2020年は、長野電鉄が創立して100周年。
その記念誌ともいうべき本書は、善光寺平における鉄道網をあらゆる視点から紐解きまとめた鉄道歴史書となっています。
 平成24年に長野電鉄創業路線であった当時の河東線(屋代~須坂間)が廃止されて久しく、長野電鉄とは縁遠くなった感じもある千曲市ですが、元々は屋代駅での国鉄と私鉄の相互接続があったからこそ発展した場所とも言えます。本書にある昭和初期当時の資料を見ると、屋代から八幡を経て上山田へ、また長野から篠ノ井を通り八幡へ続くルートがあり、私鉄としては珍しい環状線の計画があったことを知ることができ、実現していれば北信地区の温泉各地を網羅する一大リゾートトレインも夢ではなかったのではないかと感じる構想です。
 現存は長野駅を起点とした湯田中駅までの長野線のみとなり、近年はスノーモンキーによるインバウンド効果もあって賑わいを見せていました。
地方鉄道も衰退産業の一つに数えられ、また昨今のコロナウイルスの影響により、さらなる観光客減という苦境に立だされています。しかし巻末に収められた「長野電鉄思い出エッセイー作文コンテスト」の作品を読むと、長野電鉄に対する愛があふれた文章が多く、やはり地域に根差していた鉄道であることをうかがい知ることができるのです。
 高度成長期の長野を支えた長野電鉄。今でも多くの人の記憶に残りながら、これからの100年も夢とロマンをのせて走り続けて欲しいものです。
 価格1800円(+税)
 屋代西沢書店ほか県内書店で発売中。