【特集】千曲市長選への期待 両候補は現実を見た政策を
10月20日告示、27日投開票の千曲市長選は、現職の小川修一市長と市の洞田秀樹前経済部長の「一騎打ち」の構図となりそうだ。今号では、千曲市の人口動態を踏まえて、人口減少への対策や産業面から市長選の政策となる争点を提案する。
現在の千曲市の総人口は、57846人(令和6(2024年)1月現在)。市の統計によると、平成12(2000)年の合併前での更埴市、戸倉、上山田町の総人口64549人をピークにして減少し続けている。当時より6703人減った。転入総数は令和4年と5年を比べると、1808人から1811人と若干増加したが、転出総数は1578人から1652人と増えた。特に15~24歳の転出超過は続き、若い世代の転出が顕著となっている。
ただ、0~4歳の乳幼児と5歳から9歳の学童期の子を持つ家族の転入傾向は続いているという。
昨年令和5年中の自然動態は、出生数は330人、死亡数は844人で、514人の自然減だった。
千曲市の各区、自治会別の転入者数では、寂蒔、杭瀬下、上徳間、内川の各区が前年より増えている。増加の理由は、国道18号線に通じ市を南北に結ぶ千曲線沿線に大型スーパーをはじめドラッグストア、カフェ、食堂などの店舗が増えており、生活の利便性から転入者が多い。そのほかの地区は減少しているか、横ばいとなっている。
◆子育てしやすい街に
千曲市が住みやすい魅力ある街になるには、どうしたらよいのか。
まず出産や子育てしやすい街にすることが必要だろう。千曲市に住む方にはもとより、市外や県外からも「住みたいなあ」と思ってもらえるためには、乳幼児から児童、生徒の医療費は無料、小学校、中学校の給食費も無料にする。「所得制限なし」の無料化はぜひ検討してもらいたい公約だ。ミルクやおむつなどは実費で負担してもらうにしても、乳飲み子や小さい子どもを抱えた両親がなんでも相談できる場所を市内に数カ所設けてほしいものだ。これらの提供はぜひ行政が知恵を絞って担当してほしい。財源がないという言い訳はあまり通用しない。外部のコンサルタントはやめて自前で考えてもらいたい。すくに必要とされない事業は、ハードやソフトを問わずに見直しをしてほしい。市長選では、ぜひとも争点にして討論してほしい。
お金の給付は国にぜひ対応してもらいたいが、おむつやミルクなど現物は市が支給するといった対応もできよう。
◆「お年寄り」への配慮を
子育て世代への支援とともに、お年寄りへの配慮は欠かせない。元気のいい方もいれば、足、腰が痛い、目がよく見えないといった身体がきつくなった方も多い。特に、今年の夏のような猛暑が続くと、なるべく外に出たくない方もいよう。こうしたお年寄りとの「対話の集まり」を当選した市長は時間を作って各地に出向いてぜひ実施してほしい。
市長は「市民の生の声」を聴く機会として、市役所に呼ぶのではなくて、各地に行って併せて各現場をみてほしい。そうした機会を在任中に作ってもらいたい。すぐできないこともあろうが、お年寄りをはじめ、各年齢層の地域の皆さんから市政に対する生の声を聴く機会は必要だろう。大げさな準備はいらない。自然体で各地での「市長との対話の場」を公約にしてほしいものだ。
◆大手傘下に地元企業 市は「連携」を検討して
千曲市の老舗企業はここにきて、大手企業のグループになっていくケースがみられる。老舗建設会社の中信建設は2023年1月に、合成接着剤「ボンド」で知られるコニシの連結子会社となった。半導体関連のアピックヤマダはヤマハ発動機の100%子会社となった。このほか、半導体パッケージ基板製造の新光電気工業は富士通から政府系ファンドの傘下になった。半導体のセミコンダクター製造の長野電子工業は大手化学メーカー、信越化学の子会社となっているのは有名だ。
こうした地元企業が大手企業のグループになる背景には、単独で事業を続けていくことが困難になり、会社継続のためには、事業の多様化を図ることの必要に迫られて、大手の一員となっていく事情がある。こうした現状について、千曲市は「民間企業の事業だから」とただ静観しているだけでは始まらない。千曲市は物流の拠点となるインフラが整っている。高速道路の長野道と上信越道の結節点となる「更埴ジャンクション」は東京をはじめとした関東、北陸、名古屋、そして関西方面に陸上から展開するのに便利だ。さらに、しなの鉄道が南北に通り、駅も屋代、屋代高校前、戸倉、千曲と4つの駅がある。また須坂、松代と屋代を結ぶ長電バスも便数はピークからは減っているが沿線の住民の足となっている。
こうした交通網の便利さが、県外の企業が千曲市の地元企業と組む利点となっているのは間違いない。千曲市はさらに各企業との「連携」を深めるために、防災をはじめ地域共同の対策をさらに検討してほしいものだ。
この7月下旬にこうした「企業連携」が発表された。
鋳物に強みを持っている千曲市の森川産業が、建築資材に強い吉銘グループの一員になった。森川産業の 森川潤一社長は7月29日、ネットで 9月1日付に奈良県に本社をおく建築資材のサプライヤーの吉銘(貝本 隆三代表)を中核とする吉銘グループに参画することを発表した。株式会社吉銘も森川産業との事業再生を目的としたスポンサー契約を締結したと発表した。これで森川産業は吉銘グループとなった。
森川産業は1945年の設立以来、自動車メーカーを顧客とする自動車向け鋳造部品の製造・加工に係る事業を営む千曲市を代表する老舗企業だ。本紙の会員企業の紹介で、戦後から歴史が垣間見える。両社の発表を総合すると、 契約締結の理由については、 森川産業は創業70年以上に渡って蓄積した製造ノウハウを活かし、製造現場の業務改善、原価計算の適正化に強みを持っているとしている。
吉銘はこれまで複数の異業種の M&Aを推進し、譲り受けた企業において収益改善を実現している。森川産業は早急に財務基盤を改善し、経営体制の刷新によって、既存取引先との関係性を維持して事業の再生を目指すとしている。
吉銘がスポンサーとして支援することで、協業による収益の拡大、過剰債務の解消をはじめ、自動車分野以外の新規顧客の力強い開拓が可能になるとされる。吉銘が新設した子会社に森川産業ほかを分割承継会社とする吸収分割契約に基づいて、9月 1日を効力発生日として、森川産業の本社、本社工場及び八幡工場における事業に関して有する権利義務等を承継する。森川産業の事業再生、成長に必要な経営支援をするとしている。
以下、森川産業の発表によると、株式会社吉銘の概要は以下の通り。本店所在地は、奈良県吉野郡下市町。代表取締役社長は貝本隆三氏。 資本金は7200万円、 設立1970年1月(創業は1950年4月)
◆教育では未来志向の提案を
「千曲市にとってかけがえのない県立高校2校を維持し存続すること」と主張して、千曲商工会議所と千曲商工会は連名で市民への署名を呼び掛けようとしている。この主張は、県教委が各地で実施している有識者らによる懇話会のメンバ―でもある千曲商工会議所副会頭の矢島隆生フレックス・ジャパン社長の日頃からの考えでもある。
屋代南高の普通科とライフデザイン科の存在意義をもう一度検討して、なんとしても存続してほしい。途中では、屋代南高校の校地は残して、「千曲総合技術新校」(仮称)の一部学科を残すといった案が浮上したようだが、屋代南高校を丸ごと存続させるとの要望だ。地元の企業だけでなく、ながの東急百貨店や日本デルモンテの親会社のキッコーマンといった地域にゆかりのある企業もこの高校再編の動向を注視している。
さらに本紙でも何度か取り上げた「清泉大の農学部新設計画」も屋代南高校の存続には大きく影響しよう。来年4月に男女共学となる清泉女学院大は「清泉大学」として共学化され、新たなスタートを切る。申請していた政府の「大学・高専機能強化事業」の審査がこの夏に通過して、旧更埴庁舎跡地に「農学系学部」が新設される方向が固まった。醸造、発酵学、バイオテクノロジーを学ぶ場所となろう。
清泉側は、屋代南高校のライフデザイン科とは「何かできる」とすでに探っている。まさに「連携」に名乗り出そうとしている。ここに千曲市の発酵系会社もすでに連携を検討しているところもある。企業との連携はこの農学部創設の肝である。
また更級農業高校や松代高校の商業科とも一緒に連携策を検討してみたらどうだろう。生徒さんや保護者の皆さんの意見も聞きながら、性急にならずに地域や生徒の未来のための施策を提示してほしい。焦ることはない。こうした「橋渡し役」を買って出る市役所の意欲的な職員をはじめ県会議員や市会議員も名乗りを上げてほしい。見ているだけでは未来は語れないだろう。未来志向の連携についても、屋代南高の存続問題は身近な課題として市長選の争点でもあろう。
千曲市には様々な可能性がある。各地域の皆さんは、この住んでいる地域がどうなっていくのかに、少しでも興味をもってほしい。そして市長選の候補者がどのような主張をして、施策をしようとしているかに耳を傾けて、いかに市民の各年齢層の意見を聞いているかを見極めてもらいたい。そして、「これは」と思った候補者に一票を投じてほしい。
(本紙特任記者 中澤幸彦)