さらはにズム ちくま論説 2024年8月

さらはにズム ちくま論説

 ▼JR長野駅前の大規模再開発計画が進展中だ。長野市は一昨年「長野中央西地区市街地総合再生基本計画」を策定し、長野駅周辺エリア(善光寺口)について地上100m、28階建てのタワーマンションの建設の計画を打ち出した(2029年度完成予定)。場所は末広町交差点の一角のエリアで、基本計画では「魅力とにぎわいを生み出すまちの玄関口」という方向性を掲げている。

▼しかし県都の駅前の一等地に建設するタワマンが、果たして観光県・教育県の「顔」として相応しいのだろうか?計画では28階のうち5階から最上階までは共同住宅となる予定だという。県庁所在地駅前でのタワマン建設はお隣の岐阜県でも進んでいるが、長野市は地理的環境から考えてもさほど最適手とは思えない。

▼現在、東北の福島市ではJR福島駅東口の再開発でコンベンションホールの建設が検討されている。住宅棟もあるが、12階建ての複合棟は商業施設や大型ホール、オフィス事務所、ホテルが入る一大複合施設だ。福島駅東口地区市街地再開発組合の加藤理事長は「風格ある県都を目指すまちづくり構想」を実現したいと語る。企業や国際機関、学会などが行う国際会議や研修旅行、見本市などのビジネスイベントは「MICE」と呼ばれ、単なる観光振興を超える都市ブランド力向上の手段として近年注目が高まっている。来年にはリニア新駅・高輪ゲートウェイ直結の都心最大級MICE施設も開業する予定だ。長野駅前に高層ビルを建てるのであればそのようなビジョンは描けなかったものか。

▼もう一つの不満は再開発地区にある老舗映画館・千石劇場が無くなってしまうという点だ。建設予定の建物には現時点で映画館は含まれておらず、同劇場の支配人は存続を求める署名活動を行っているそうだ。今回の再開発計画は、こういう姿勢からも文化的なブランド価値を高めようという意志が感じられず残念だ。

▼5月にちくま未来戦略研究機構のまち未来チャットで駅前の振興策について討議したところ「屋代駅前に映画館を」という意見が出ていた。かつて埴生地区には映画館があった。駅前への千石劇場の誘致は夢物語だろうか。デルモンテ長野工場の跡地などは適地だと思うのだが。(W・S)