「雪のなまえ」
著者の村山由佳さんといえば恋愛小説家という印象が強い作家ですが、今回は長野を舞台にした家族と自分再生の物語として、全編通して主人公である小学生雪乃の視点で描かれています。 いじめが原因で東京での不登校となった雪乃。東京の生活から一変し、父親と一緒に移住した長野での生活。雪乃は同級生だちと新しい生活の中で徐々に気持ちも潤っていき、長野の方一言が混じる曽祖父をはじめとした地元の人々の言葉には、どこか懐かしさがある安心感と腑に落ちるようなやさしい感情が表れています。また信州をはじめとした田舎暮らしや移住、半農半X、転職を感化されるような内容も地方に住む私たちにとってはありがたさも感じられます。
人の居場所を作るのは、結局は人と人との接し方。現実を考えた時には、田舎だからあたたか味があるとは言い難く決してイコールではないが、かといって単に田舎を美化された表現でもなく農業や生活の厳しさも描き、人間の成長や人生の在り方について丁寧に書かれています。 「いじめ」 「居場所」 「農業」 「移住」といった、現代社会にとって話題性の高いキーワードを用いながら、全体的にまとめ上げるのはさすが。村山さん自体が、軽井沢への移住者であることが物語に一層の重みと付加価値を与えているのだと実感し、読んでいても納得の一冊。私個人的にもデヴュー当時の昔から大好きな作家であり、この冬一押しの小説です。 価格1700円(+税)
屋代西沢書店ほか県内書店で発売中。