ちくまブックレビュー ウェルビーイングがありました

『むかしむかしあるところにウェルビーイングがありました』

          石川 善樹× 吉田 尚記 (著),              KADOKAWA刊

 最近よく耳にする「ウェルビーイング」という言葉、皆さんはご存知ですか?毎年日本政府が出す「成長戦略実行計画」の中においても「国民がウェルビーイングを実感できる社会の実現」という文脈が出てくるほど重要なキーワードです。

 そもそもウェルビーイングとは何か?それは、肉体的にも精神的にも社会的にも幸せな状態で、人がより良い人生を送るための新しい価値観を指しています。要するにその人の「満足」と「幸福」が揃っている状態であり、一つの要因としては人とのつながりが大きく、寄り添ってくれる人がいる事でウェルビーイングを感じることに影響します。

 「むかしむかし」ではじまるこのタイトルにも現れているように、本書は昔話と関連付けながら日本的ウェルビーイングについて書かれています。日本的とは?それは「めでたしめでたし」と、平穏な日常に戻り暮らしていくことで物語の終着となり、すなわち始まりと終わりが一緒であることにつながっていきます。これは「ゼロに戻る」という原点回帰の思想です。そして、主人公も個人の能力を高めるのではなく、周りとの協力を得て困難を乗り越えるお話しも多いことは、今で言う「推し」による支援や応援につながるのだといいます。

 文化や思想、時代によっても、ウェルビーイングの捉え方は変わります。日本人としてはおもしろおかしく、そして腑に落ちる考察で共感できるのではないでしょうか。

               (文:田中一樹)

 価格1300 円(+税)

 屋代西沢書店ほか県内書店で発売中。