ウッドハウスの世界(11)森村たまき
こんにちは、イギリス生まれのユーモア作家、P・G・ウッドハウスの翻訳をしております、森村たまきです。
いきなり宣伝で始めて恐縮ですが、ウッドハウス以外の翻訳もしておりまして、二月二五日に岩波書店から刊行される二コラ・レイシー著『法哲学者H・L・A・ハートの生涯(上・下)』の翻訳に参加しています。法学の世界ではあまりにも有名なハートですが、その生涯はフィクションを超えた面白さです。ご一読いただければ幸いです。
さてと、二〇〇七年ロードアイランド州の州都プロヴィデンスで開催されたアメリカウッドハウス協会のコンベンションの話の続きでした。土曜日はウッドハウス研究報告会で、全米全英から集ったウッドハウス研究家たちによる発表です。テーマは多岐にわたり、カトリック神父であるボストンのウェンデル・ヴェリル師による「ウッドハウスと神」、ウッドハウスの母校ダリッジ・カレッジ図書館のマーガレットースライス氏による「ブリッジ的要素」、オックスフォードのソフィー・ラドクリフ准教授による、当時執筆中たった『手紙で綴るウッドハウスの生涯』 (2009)の進行報告と、同書のための個人蔵のウッドハウス書簡を提供してくれないかというお願い、ウッドハウスの伝記執筆者デイヴィッド・ジェイセンによる、ウッドハウスの思い出、『ウッドハウスとハリウッド』 (2006)の著者、国会図書館のブライアンーテイヴス氏によるウッドハウスと映画、ウッドハウス研究の泰斗ノーマンーマーフィーが、彼の大著『ウッドハウスーハンドブック』 (2006)に入れられなかった資料について語「デイレクターズ・カット」……と、今思い返してもあまりにも豪華絢爛な報告者陣でした。
他にも「もしジーブズが犬だったら」とか、「ウッドハウスとゴリラ」とか、楽しい報告が目白押しだったのですが、ノーマンけじめ、この時の報告者の多くは故人となってしまいました。丸一日、笑いは起こるけれども基本的には真面目な研究報告を聞き続けたその晩は仮装あり、トークあり、寸劇ありのバンケット。翌朝は別れのブランチ(寸劇あり)で、私の初めてのアメリカウッドハウス協会のコンベンションは幕を閉じたのですが、この後再びニューヨークに戻ってウッドハウス史跡を歩き回り、口ングアイランドの旧ウッドハウス邸を訪ねてお墓参りもしたのです。その話は次回にいたしましよう。
※写真は英国陸軍中佐、ノーマンーマーフィーに教わった英国式敬礼。