こんにちは、イギリス生まれのユーモア作家、P・G・ウッドハウスの翻訳をしております、森村たまきです。昨年は〈ウッドハウス名作選〉として、二冊ウッドハウスの翻訳書を刊行することができました。宣伝になりますが、今回はその紹介をさせてください。
一冊目は六月刊行『ボドキン家の強運』。ウッドハウス史上最長最大の名作との誉れも高い作品です。主人公モンティ・ボドキンはイートン校、オックスフォード大学卒業、ドローンズ・クラブで二番目の大金持ち、容姿端麗性格円満と、悲の打ち所のない好青年なのですが、相思相愛の女子ホッケー選手、ガートルード・バターウィックのお父上が一代で財を築いた苦労人で「稼ぐ力」のない男に娘をやれん! と言うばっかりに、定職に就いて一年間それを維持しないと結婚できない。ところが不幸な誤解からガートルードはモンティとの婚約を破棄して女子ホッケーアメリカ遠征に向かってしまって、それを追ってモンティも同じニューヨーク港行きの豪華客船に乗り込んで誤解を解こうとがんばるのですが、次から次へと厄介ごとやら揉め事やらは続くばかり。大西洋航路の豪華客船を舞台にハリウッド映画界の大立者とか子ワニと旅する赤毛の映画女優とか、何かと面倒くさいスチュアードとかが入り乱れては話をこんがらがらせて、ニューヨークに着くまでにモンティに幸せは訪れるのでしょうかと読む側も振り回された挙句の堂々四五〇頁、大長編です。
二冊目は九月刊行『春どきのフレッド伯父さん』。こちらもウッドハウス壮年期の名作として名のみ高く、日本語で読むことができなかった作品なのですが、訳出できてうれしかったです。舞台は第九代エムズワース伯爵クラレンスと女帝豚、エンプレス・オヴ・ブランディングズがしろしめす古城ブランディングズ城。エムズワース卿が世界の何より愛する愛豚エンプレスが、問題大ありのダンスタブル公爵に強奪されてしまいそうな危機を救わんと、第五代イッケナム伯爵フレデリックことフレッド伯父さんが立ち上がり、甥っ子ポンゴの借金問題やら姪っ子のヴァレリーとダンスタブル公爵の甥の婚約破棄問題、ダンスタブル公爵のもう一人の甥と心優しき町娘ポリーの恋物語と経済事情も併せて解決してしまうべく、よりによって高名な精神科医サー・ロデリック・グロソップを名のってブランディングズ城に乗り込むという、こう書いていてもよくわからないだろうなあと思うのですが、面白いので是非読んでください。
今年は二月にウッドハウス初期ニューヨーク時代の連作短編集『アーチー若気の至り』が刊行予定で、ただいま最終作業中です。コロナも落ち着いてきたとはいえなかなか思うようにならない世の中ですが、今年もウッドハウスをたくさん読んで、笑っていただきたいなと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。