フォト&エッセイ 自転車のある風景  第二十五回 オーストラリア横断自転車旅行⑯

フォト&エッセイ 自転車のある風景 

第二十五回 オーストラリア横断自転車旅行⑯

 ユークラ砂丘

 一日のほとんどの時間をサドルの上で過ごしていたオーストラリアの旅だったが、たまには自転車を降りて自分の足で歩く事もあった。ナラボー平原を横切るイヤーハイウェイ(オーストラリアのハイウェイは日本の国道みたいなもの。高速道路はフリーウェイ)は地図上では海岸線を走っているように見えるが、実際はかなり内陸を走っているので海は見えない。だが、鯨が見える事でも有名なユークラでは久しぶりに青い海を目にし、おまけにそれまで見慣れたオーストラリアの赤い大地の色とも、黄砂の砂漠とも違う石灰質の真っ白い砂丘が眼下に広がっているのを見て、崖を降りてそこまで行ってみることにしたのだ。先ずは藪の中に自転車を隠す。リアキャリアに縛ってあったリュックに水や食料、貴重品を詰めて出発。ルートはキツくはないがサンドフライと呼ばれるアブが多く、手で払いながら下へと向かった。辿り着くとそこには真っ白な砂丘と青い空と海が広がり、まるでCMのような世界がそこにあった。自分以外誰もいない白い砂丘で、ロードハウスで買っておいたサンドイッチを頬張る。すると、自分しかいないと思っていた白い世界に他にも動くものがいる事に気が付いた。目を凝らしてみると、それは2頭の白いヒツジ。砂丘とそこにいるはずのないヒツジという幻想的な風景。サンドイッチ片手に波音を聞きながらずっとその風景を見ていたかったが、置いてきた自転車のことが心配で食べ終わると名残惜しい気持ちを振り切って来た道を上り返した。

 帰国してからも、白い世界の広がるあのタバコのCMを見ると、どこかにヒツジがいるような気がしてしまう。それ程印象に残る不思議な風景だった。