千曲市の未来図業 千載一遇のチャンス 清泉女学院大の「農学系学部」の新設構想で大きく変わるか

千曲市の未来図業 千載一遇のチャンス 清泉女学院大の「農学系学部」の新設構想で大きく変わるか

千曲市森のあんずの里で今年杏の花が咲くのは3月30日と予想されている。しかし彼岸中日、春分の日は雪が降った。それでもほうぼうの家庭の庭のスイセン、チューリップの芽は確実に成長している。咲くのが楽しみだ。千曲市も発足20周年となり、市内では各地で新たな動きが起きている。

 最近、千曲市の未来の発展につながる大きなニュースが飛び出した。3月16日の信濃毎日新聞朝刊1面トップに「清泉女学院大 千曲に新キャンパス構想 農学系学部を新設」と大きく出た。3面には「農業県の強み生かす」とサイド記事も掲載された。この報道によって、千曲市民の多くはこの構想を知ることになる。これについては前日の千曲市議会閉会後の全員協議会で市議の前で小川修一市長と田村俊輔清泉女学院大学長、同大経営企画室の木村室長が説明し、明らかにした。

 関係者に本紙が取材すると、昨年11月ころ清泉側が千曲市に「農学系学部」の新設構想のために旧更埴庁舎の跡地利用について打診してきたという。この構想の実現は、政府・文部科学省が進める「大学・高専機能強化支援事業」に採択されることが前提となっている。千曲市にとっては、跡地の一部を消防施設の機能強化に使用するほか、「駐車場」とする計画だったが、この構想提案は「渡りに船」ともいえる内容だったのではないか。

 清泉側の構想と関連情報を総合すると以下の通りだ。

 長野市の清泉女学院大・短大は昨年10月19日、男女共学を柱とする大学改革に伴い2025年4月から大学名を「清泉大学」とすると発表した。「情報コミュニケーション学科」と「文化芸術学科」を置く「人文社会科学部」を新設し、大学院に「保健師養成課程」を設置する計画だ。短大は「短期大学部」として位置付ける。

 今回の構想について同大は長野県内の地域と連携し、新たに「農学系学部」の新設を検討している。清泉側はすでに、政府・文科省が「グリーン」や「デジタル」などの成長分野の理系学部を新設する大学を支援する事業に応募しており、早ければ今年6月にもその審査結果がわかる見通しだ。その結果を受けて、25年度中に新学部の設置を国に申請する予定。同大が応募したのは文部科学省の「大学・高専機能強化支援事業」で、採択されると補助金の上限20億円が拠出される。

 前提条件がクリアできれば、「農学系学部」新設は進むことになる。旧更埴庁舎の跡地は、「駐車場」とするための解体作業が進んでいた。関係者によると、土地は清泉側に貸与される予定(無償貸与か安い賃貸料かは今後検討されるようだ)。清泉側は県内4か所で「農学系学部」候補地を探していたという。千曲市は陸上交通のアクセスがとても良い。高速道の上信越道と長野道が合流する「更埴ジャンクション」とともに国道18号線は関東と上越の日本海を結ぶ幹線道として便利、山道とはなるが国道403号線は松本など中信につながる。しなの鉄道の屋代駅も旧更埴庁舎には徒歩圏内だ。

 どういった農学系学部が新設されるかの詳細については明らかにされていない。構想の骨格を盛り込んだ文書には、養成する人物像として「発酵、醸造を学び、長野県が誇る産品のマーケット拡大に資する人材」とともに「環境に配慮して、持続可能な供給システム構築を目指せる人材」と書かれている。たぶん発酵、醸造学やバイオテクノロジーを柱とする「農学部」となろう。入学定員は1学年80人、四年制の収容定員は320人という。

 この構想を知った市議の一部からは「基本的には千曲市のためになり、賛成だが、地域住民への説明をきちんと市と清泉側はしてほしい」「千曲市の限られた幹部職員と一部の市議は事前に知っていたようだが、今後は市と清泉側は連携して市民と情報を共有してほしい」といった意見が聞かれた。また別のある市議は「前提条件がクリアされて、補助金が決まったら、大学の運営方法などについて市は清泉側とともに、市議会でその都度説明して、その責務を果たしてほしい」と求めた。

 清泉女学院大の田村学長はホームぺージで「清泉大学は、新たな大学名と共に、この長野の地で、未来への次の一歩を踏み出します。その教育理念は「Reparacion(レパラシオン)」と「Magis(マジス)」という言葉で表現することができます。(中略)これらの理念に基づいた教育は、学生それぞれが自身の足を置く「地域」から始めなければなりません。しかし、地域から始めるということは、その地域のことだけを考えるということではなく、時と場所を超越した世界と歴史とのかかわりという観点から今いる場所のこれからの姿を考えるということです。(中略)

 清泉は、この長野という土地に立って、その地におけるほころびとゆがみを繕い、新しい仕組みを生み出し、動かすことによって、より多くの人にとっての共通の善きものをもたらす世界を創っていくことに貢献することを喜びとする人間を育てたいと考えています」とのメッセージを掲げている。未来志向で大いに賛同できる内容だと思う。ぜひ市民や市議会でも語ってほしい。

 そしてクローズアップされるのは、旧更埴庁舎と国道18号線を挟んで近くにある県立屋代南高校の存続問題だ、清泉大の農学系学部が新設されれば、南高のライフデザイン科との「連携」も当然検討に値すべき具体策が考えられる。市は今から有識者会議を立ち上げて、実現できる「未来図」を市民の意見も聞きながら検討していくべきだろう。一部の利害関係者やコンサルタントに丸投げするのではなく、「市民ありきの千曲市」であることをよく認識して取り組んでほしい。

 千曲市は今まさに大きく変貌を遂げる機会がきている。雨宮の新産業団地には、半導体を製造する長野電子工業や半導体とパッケージ基板など関連製品を製造する新光電気工業の新工場が稼働し始めている。また飲料や自動車部品、重機などの物流拠点も着々と完成している。こうした流れのなかで、中心市街地では、八十二銀行と長野銀行の経営統合による店舗の統廃合、六十年操業してきた日本デルモンテ長野工場の25年6月での生産終了によって工場はなくなる予定だ。

 千曲市が未来に向けて大きく変わる「千載一遇のチャンス」を生かしてほしい。さらに特に、コロナ禍によって閉館した稲荷山のホテル杏泉閣(湯ノ崎の湯)の跡地活用も、市と金融機関は地域の施設機関との連携を想定して検討してもらいたいものだ。

(本紙特任記者 中澤幸彦)

解体工事中の旧更埴庁舎 

清泉女学院大ホームページ (2025年4月~清泉大学)

https://www.seisen-jc.ac.jp