思いを形に 夢咲く文 第9回 読んでもらえる昔のこと 夢の作文支援センターさらしな堂 大谷善邦
昔のことを聞かされて、「いい話だな」「参考になる」と思うのは、どういうときでしょうか。
「ご希望の方はどうぞ」となっていた公共施設の本の箱から、気になって持ち帰った冊子があります。太平洋戦争後のシベリア抑留を体験した方がお書きになったエッセイや詩、短歌で構成したものです。趣味で描いた絵画を、カラーでところどころに配置し、目に心地よく、魅かれるエッセイのタイトルがありました。家で読んでみて、「いい文章だなあ」と思いました。冊子の中にある、ほかのエッセイや詩も読みたくなりました。
前書きをみると、「体験を後世に伝えてほしい」と第三者から声をかけられ、地元の新聞に書いたものなどをまとめたものです。いわゆる自分史と言えますが、一つの体験を、具体的にたっぷり、しかし短く書いたエッセイは、読みごたえがありました。著者の伝えたいことは、書かれた体験自体から伝わってくる感じがして、読み進めやすかったです。
「いいなあ」と思った文章があれば、なぜ、そう自分は思ったのか考えてみましょう。それが伝わる文章のお手本です。シベリア抑留者の文章に私の心が動いたのは、主張を抑えたその書きぶりにもありました。
(元共同通信記者。著書「白 さらしな発日本美意識考」など)