歌壇 安曇於保奈 選
【秀逸】該当なし
【佳作】
わが肌に桜湿りを感じたり桜吹雪を浴びて帰れば
倉石みつる
この歌の作者は卒寿の方。桜の花が舞う中を歩いて帰ってきたら、肌がいつもより湿り気があったと詠い、それを「桜湿り」と表現された。歌に若さや艶がある。
【入選】
老い二人歴史小説サカナにし武将になりて酌み交わす宵
土朗
ちくま未来新聞の歌壇スタートにあたり、今回は告知期間が短く歌壇のことをご存じない方や投稿が間に合わない方もおられたと思われるので、今月はこの欄をお借りして最近の歌人たちの短歌をいくつか紹介してみたい。東日本大震災、ロシアのウクライナ侵攻、ガザ、日本社会などを、短歌で何ができるかと煩悶しながら詠う歌人たちの歌。
熱い出し子の背撫でてゐる母の背を撫でにゆきたし夜の避難所
栗木京子 『水仙の章』(2013)
戸籍簿も家も流されたる遺体安置されをり水仙添えて
同右
ガザ地区の空爆によりワクチンも砕け散りにき赤きその蓋
栗木京子『新しき過去』(2022)
ホロコーストの慰霊碑までも破壊されウクライナに暗く雪積む
同右
氷雨降る人をあきらめさせるため〈偶然〉という言葉使いぬ
吉川宏志『雪の偶然』(2023)
「ママ、これは演習じゃなかった」読まれゆく死者のスマホのふきだしの文字
同右
ウォーターリリーここに生まれてウォーターリリーここがどこだかまだわからない
川野里子『ウォーターリリー』(2023)
ブレーキとアクセル踏みまちがへたといふ日本がそしてある老人が
同右
【応募要領】■官製はがきに三首まで(二重投稿は不可)■住所・氏名・電話番号を付記■締め切り毎月十日■宛先〒387‐0012 千曲市桜堂521ちくま未来新聞 歌壇係