歌壇 安曇於保奈 選 2024年10月

歌壇 安曇於保奈 選 

【秀逸】

ひと粒のごはん零せば食べよとう目が潰れると言われし頃よ    倉石みつる

 子どもの頃、食事の時にご飯粒を零したりすると、親から「お目め潰れる」と言われた作者。ひと粒でも大事にしなさいとどの家庭でも言われていた。フードロスのある現代への警鐘でもある。記憶をひとつの記録として歌に残していく姿勢がこの歌になった。

【佳作】

言の葉が枯葉のように散っていくSNSの風に吹かれて           土朗

 生気を失っているように見えるこの頃の言葉。まるで枯葉のようだ。SNSでは言葉が整えられることもなく溢れ、強風にあえなく散っていくと作者。現代を巧みに捉えた作品。ボブ・ディランの「風に吹かれて」も聞こえる。

夜ふけてしばし一人で読書するうれしさあふれる秋が近づく    荒井よし子

 猛暑にじっと耐えて涼しくなるのを待っていた作者。少し凌ぎやすくなった夜、好きな本を開く。静謐な歌になった。

【入選】

賞味期限過ぎれば全て棄てるとう勿体ないに育ちし我は           倉石みつる

秋風は暑さきびしきこの夏をしずかにしずめそっと立ち去る    荒井よし子

悲しみの瞳ギラギラガザの子ら いつになったらキラキラ星に              土朗

幾筋かおでこにしわが出てくれば提灯じわと言われビックリす              那賀吉弥

 今回は、和歌山県出身の歌人道浦母都子(1947~)の歌を鑑賞したい。道浦は『無援の抒情』(1980)で歌壇に登場。「未来」選者。信毎歌壇の選者も務めた。最新歌集『あふれよ』(2024 角川書店)から。

この空は有事のそらと仰ぎ見ん剥ぎ出ししの青したたるばかり

子のなきこと少し幸せ 戦場に息子送ることのなきこと

【応募要領】■官製はがきに三首まで(二重投稿は不可)■住所・氏名・電話番号を付記■締め切り毎月十日■宛先〒387‐0012 千曲市桜堂521 屋代西沢書店2階 ちくま未来新聞歌壇係