歌壇 安曇於保奈 選 2024年8月

歌壇 安曇於保奈 選

【秀逸】

栄一・柴三郎・梅子らの新札に託す日本の未来

荒井よし子

 二十年振りに、お札の顔が変わった。近代産業経済の父とも言われる渋沢栄一、細菌研究で世界に名を馳せた北里柴三郎、女子教育に情熱を傾け津田塾大学を創設した津田梅子が新札に登場した。偽造を防ぐ技術も採用され、数字が見やすくなった新紙幣。これで日本の未来が少し明るく見えるような気がする。新しい社会の動きを巧みに詠み込んだ。

【佳作】

梅雨空に伽羅の小袋吊るしたり邪気払うごとき奥深き香り

倉石みつる

 伽羅は沈香の香木の芯から精製する良質の香り。その奥深い香りの伽羅を小袋に入れて吊るすと、梅雨空の邪気を振り払うようだと作者。伽羅という普段あまり使わない用語を短歌に用いたことで、奥深い香りの歌になった。

【入選】

きゅっと鳴る新しい靴さあ一歩背筋のばして踏み出すために 倉石みつる

青空と入道雲の八月に地球をはなれた友にあいたい 荒井よし子

物捜し何を捜していたのやらメガネをかけてもまだ見つからぬ 那賀吉弥

「ただいま」と「おかえり」に乗るイントネーション今日一日の仕舞いの言葉 士朗

 今回は、和田村出身の歌人、窪田空穂(1877~1967)の歌を鑑賞したい。

貧しさに堪へつつ生きて久しけど我が心いまだ痩せしと思はなく親としてすべきあらまし終へぬればわが傍らに子の一人ゐず親ごころおろかしくして必ずや生きて還ると頼みたりしをまさやかに眼にうかび来る事どもの次ぎ次ぎありて茂二郎生く冬空のもとにひろごる焼野はら一すぢの路細りてうねる

【応募要領】

■官製はがきに三首まで(二重投稿は不可)■住所・氏名・電話番号を付記■締め切り毎月十日

■宛先〒387‐0012 千曲市桜堂521 屋代西沢書店2階 ちくま未来新聞 歌壇係