歌壇 安曇於保奈 選
【秀逸】
嫁にゆく娘に母は機(はた)を織り絹の着ものを持たせてやりき 倉石みつる
作者は昭和が始まって間もなくの頃の生誕。この地域は養蚕が盛んだった。長野電鉄河東線は生糸を運ぶために敷設されたと聞く。娘が嫁ぐとき母親は自分の家の蚕の繭から糸を取り、それを機織り機で織って着物にされたことを作者は記憶している。この一首に地域の百年近い歴史・文化・家族が詰まっている。掛け替えのない絹の着物。
【佳作】
友の家の裏木戸の錠冷えに耐え主の退院待ちておるらむ 百合
友の家のご主人は入院中。裏木戸に鉄製と思われる錠前が掛かっている。寒さに凍りそうなのだが、それに耐えるようにして主人の帰りを待っていると感じた作者。錠前が巧みに用いられている。
【入選】
散歩坂落ち葉に埋まる水車跡虚子の足音聞こゆる小諸 甘利真澄
いい歳の旧知の宴夜は深みいつか話は過去へ過去へと つきはら
帰省せし教え子らとの語らいに復帰したしよ まだこれからだ 山野耕治
天保の人を思いて解く言葉勉強会はタイムスリップ 湯本孝一
孫の手を握りたくても追いつかぬ走る速さは今年も増して 中村妙子
メンコしてはしゃぎ騒ぎし友の家空き家となりて静もれる庭 中村邦久
造語なる「トランプフォーメーション」に膝を打つ尚中さんの鳥瞰図なる 土朗
前回に続き、高野公彦(1941~)の最新歌集『水の自画像』から鑑賞したい。
人の下に人を作りてその下に非正規作りし平成社会
【応募要領】
■官製はがきに三首まで(二重投稿は不可)
■住所・氏名・電話番号を付記
■締め切り毎月十日
■宛先〒387‐0012 千曲市桜堂521 屋代西沢書店2階
ちくま未来新聞 歌壇係