歌壇 安曇於保奈 選
【秀逸】
九十路翁短歌を武器とし六冊の満蒙開拓の歴史伝えぬ 緑川竹子
地元新聞に掲載された記事を読んで作者はこの歌を詠まれたようだ。かつて長野県から満蒙開拓に応じた方は3万3千人、青少年義勇軍としても3万人と言われ、全国都道府県最大であった。九十路(ここのそじ)になるこの方もこれに応じた一人で、この方は短歌を自身の記録としても詠んでおられ、そのノートが六冊にもなっていたという。短歌は抒情だが、この時代の証人として記録性も忘れてはならない。
【佳作】
花抱え訪ねし義母は百一歳笑顔ますます優しくなりぬ 甘利真澄
作者の義母は百一歳で仙台に住んでおられる。作者は時折様子を見に一人で行くという。妻亡きあともこのような心配りをするのはなかなかできない。花を抱えて訪ねると義母の笑顔はますます優しくなったと作者。そう詠う作者の優しさ。
【入選】
幼きは神風吹いて日本は必ず勝つと信じていたり 倉石みつる
見たいなら個人情報出したまえここは夢洲万博の関 つきはら
硫黄島サイパンの海を語り来し碑も茫々とモモザ待つ里 百合
母ちゃんの飯が食いてえとつぶやきし少年の戸は開かんとせり 湯本孝一
雪の朝旅行者も座る永平寺朗々たる経響く法堂 中村邦久
花嫁を迎える朝にホーホケキョ玄関先の梅ほころびる 小橋浩樹
不甲斐なしご先祖様の山荒らし項を垂れてチェーンソー振る 昼行燈