歌壇 安曇於保奈 選 25年9月

歌壇 安曇於保奈 選

【秀逸】

塀越しに神輿の屋根が通りゆく

子らの掛け声夏が始まる    

甘利真澄

 街の夏祭り。子ども神輿がうねる。塀があって作者の眼には神輿の屋根しか見えないが、子どもらの元気な掛け声が聞こえてきて、神輿全体が見えているかのよう。屋根が通り過ぎる、の詩句により秀逸な歌になった。

【佳作】

幾十の手毬のごとき大花火赤が緑に変りて消えぬ

中村邦久

 夏の大花火を手毬のようだと詠う作者。この詩句で歌になった。確かにいくつもの手毬が上がっているように見える。赤から緑に変り、そして消えていく。一瞬の夏。儚いがゆえに美しい。

【入選】

長岡の花火にあそぶ浴衣の娘フリルの帯にイヤリングきらり   中村妙子

母は此方の施設に慣れてと報せくる会うこと難き遠き街から   百合

アルコールの依存の病を講義する元アイドルの話にはっとす   湯本孝一

空き家屋に毎日響く暴れ玉注意をするも唇さむし      昼行燈

旅を終え止めし時間を動かせばいつもの日々のやさしさしみる             つきはら

盆休み元気に笑う初孫に遺影の先祖は笑顔浮かべぬ   小橋浩樹

クリップを指に挟んで数字見る夫の血中酸素91      宮坂岩子

朝顔を己が心に写し取り今日一日の笑顔となさん      土朗

 高野公彦の『水の自画像』から。

岐路いくつありてその都度えらびたるわが道、今は一つ細道

断崖を大落下する一瀑布その純白は水の自画像

【応募要領】■官製はがきに三首まで(二重投稿は不可)■住所・氏名・電話番号を付記■締め切り毎月十日■宛先〒387‐0012 千曲市桜堂521屋代西沢書店2階 ちくま未来新聞 歌壇係