歌壇 安曇於保奈 選
【秀逸】
塀越しに神輿の屋根が通りゆく
子らの掛け声夏が始まる
甘利真澄
街の夏祭り。子ども神輿がうねる。塀があって作者の眼には神輿の屋根しか見えないが、子どもらの元気な掛け声が聞こえてきて、神輿全体が見えているかのよう。屋根が通り過ぎる、の詩句により秀逸な歌になった。
【佳作】
幾十の手毬のごとき大花火赤が緑に変りて消えぬ
中村邦久
夏の大花火を手毬のようだと詠う作者。この詩句で歌になった。確かにいくつもの手毬が上がっているように見える。赤から緑に変り、そして消えていく。一瞬の夏。儚いがゆえに美しい。
【入選】
長岡の花火にあそぶ浴衣の娘フリルの帯にイヤリングきらり 中村妙子
母は此方の施設に慣れてと報せくる会うこと難き遠き街から 百合
アルコールの依存の病を講義する元アイドルの話にはっとす 湯本孝一
空き家屋に毎日響く暴れ玉注意をするも唇さむし 昼行燈
旅を終え止めし時間を動かせばいつもの日々のやさしさしみる つきはら
盆休み元気に笑う初孫に遺影の先祖は笑顔浮かべぬ 小橋浩樹
クリップを指に挟んで数字見る夫の血中酸素91 宮坂岩子
朝顔を己が心に写し取り今日一日の笑顔となさん 土朗
高野公彦の『水の自画像』から。
岐路いくつありてその都度えらびたるわが道、今は一つ細道
断崖を大落下する一瀑布その純白は水の自画像
【応募要領】■官製はがきに三首まで(二重投稿は不可)■住所・氏名・電話番号を付記■締め切り毎月十日■宛先〒387‐0012 千曲市桜堂521屋代西沢書店2階 ちくま未来新聞 歌壇係