歌壇 安曇於保奈 選 24年10月

歌壇 安曇於保奈 選 安曇於保奈 選

【秀逸】

外科医師は膝の手術を終えて立つのこぎり・のみ持つ大工のごとし

倉石みつる

 膝手術を終えた外科医師が目の前に立っていた。まるでのこぎりやのみを持つ大工のように見えたという歌。手術器具を持っていたのではないと思われるが、膝手術を終えた医師はそのように見えた。感謝と驚きが混ざった気持ちを巧みに詠まれた。

【佳作】

いつの日か主婦を卒業する日がくると信じ待ちます 卒業証書

荒井よし子

 主婦の卒業という歌。長らく家族を守り支え、地道に家事を続けられて、何ひとつ愚痴をこぼすこともなかったであろう作者。でも内心は主婦というものから卒業したい気持ちもある。卒業証書を待ちます、という詩句が秀逸。

【入選】

今を生きることができればその日より人はしあわせに生きられるかも 荒井よし子

百歳の姉はメラニン減りし手をきれいでしょうとかざしてみせる 倉石みつる

歳を取り超健忘の今なれど短歌の応援で惚けを追い出す 那賀吉弥

案山子らよふんぞり返れば倒れるに実れば頭垂るる穂を見よ 土朗


 今回は飯山出身の歌人田井安曇(1930~2014)の歌を鑑賞してみたい。田井安曇は「綱手」を創刊。飯山高校の校歌を作詞。歌碑と校歌碑が飯山高校敷地内にある。

信濃恋いまたしんしんと湧き出でて遠信濃恋いはてしもあらず

(『右辺のマリア』より。この歌が碑に刻まれている)

蝉のこえ充てる胡桃の木の下にアンゴラと牧師と遊ぶ夕暮れ

雪ふかきはての信濃に育ちしは逃れむとして逃れざるべし

父の辺にありし小布施の三月を水音としてわれは思うも

【応募要領】

■官製はがきに三首まで(二重投稿は不可)■住所・氏名・電話番号を付記 ■締め切り毎月十日 ■宛先〒387‐0012 千曲市桜堂521 屋代西沢書店2階

ちくま未来新聞 歌壇係