特集② ◆市民の交通手段の確保は?
長電バス・屋代須坂線バス事業見直し
8月12日、長野県公共交通活性化協議会の長野地域部会で「屋代須坂線の見直し」が議題にあげられ、長電バスの鈴木立彦社長は「減便、もしくは撤退をお願いしたい」と発言した。屋代駅から須坂駅までの24.4km区間は平成24年(2012)に長野電鉄屋代線が廃止。代替交通手段として長電バスが運行を開始することとなったもの。しかし、路線住民の利用は減少傾向にあり、昨年8月に長電バスは「利用者の減少と運転手不足」から屋代駅行き、須坂駅行き共に減便を実施した。かつて13の駅があった千曲川東側の河東地域では現在屋代行き、須坂行き共に平日15便が運行中だ。3市にまたがる同路線上には県立高校が6校存在し、乗客は中高生ら通学での利用が約7割を占めている。事業者側から同路線の撤退に言及するのは今回が初めてで、部会では学校関係者から懸念を示す意見が相次いだ。
高校再編問題にも影響が
千曲市内では屋代南高校前と屋代高校前にそれぞれ同路線のバス停留所が設置されている。8月25日に開催された県立高校の再編実施計画懇話会の席上で、地域代表の構成員を務める赤地憲一氏から屋代須坂線事業見直しについて発言があり「非常に衝撃的。どうしてこんなことを急に発表するのか」と県の対応を質した。同懇話会の構成員で県公共交通活性化協議会長野地域部会の構成員も務める県長野地域振興局・坪井俊文局長は「基本的には通学・通院の足を守るということでやっており検討中」として、地域部会の席での発言と同じく「中学生の進路選択時期の10月をめどに方向性を示したい」と答えた。【関連記事1面】
地域内の高校では懸念を共有
現在県長野地域振興局では各高校に対して利用状況の調査を実施中。中間集計で屋代高校は30人強、屋代南高校は10人強の利用が確認されているという。北信地区高等学校長会の会長を務める屋代高校の馬場正一校長は「屋代高校では以前から長電バスに朝のHRに間に合うようダイヤを改正してもらっている。まず朝の通学の足を確保してほしい」と訴える。今年6月には北信地区高等学校長会と北信高等学校PTA連合会との連名で「高校生の通学手段確保に関する要請書」を提出。等しく教育を受ける機会の保障を訴えている。この要請は牟礼線など長野市内のほかのバス路線の廃止に伴い再考と代替交通手段の導入を求めるものだったが、そのさなかに新たに屋代須坂線の見直しが表面化したことに困惑しているという。各学校で特色ある教育を実践しているなか「通学手段が確保できないことで選択肢から外れてしまうと、教育を受ける機会の保障という理念が損なわれかねない。広く社会の課題として考えていただかないといけない」と語った。また、自身も松代地区出身という馬場校長は「松代高校は千曲市方面から通う生徒も多い。より影響が大きいのではないか」と指摘する。
長電バスの厳しい事情
一方の事業所側の事情も深刻だ。昨年の減便に際し、屋代地区で住民説明会にもあたった長電バス㈱乗合・乗用部長の大石真一氏は取材に対し「見直しの一番の要因は運転手不足より何より乗降客が少ないこと」と話す。須坂‐松代間の日中の乗客は2人だけという日もあるという。千曲市内土口区間の運行についても「土口経由の便をぜひ残してほしいという要望から存続しているが殆ど利用者がいない。道幅も狭く危険なルートを、誰も乗客のいない状態で運転する運転手のモチベーションも考慮してほしい」と嘆いている。
巨大商業施設は救世主となるか
一方で乗客増が期待される路線も存在する。須坂長野東IC近くには「イオンモール須坂」が10月3日開業予定。北側エリアにはホームセンターと家電量販店が融合する「アークスクエア須坂」もオープン済みで、大変な賑わいを見せている。長野駅から須坂駅まで直結する長電バスの須坂屋島線は「イオンモール須坂」への乗り入れを開始。ダイヤの増便も計画しているという。屋代須坂線も9月26日から須坂長野東ICの停留所を移設しイオンモール須坂を経由することとなった。買い物客やインバウンドで屋代須坂線への波及効果はないのだろうか?だが長電バス側は「長野市中心部からはともかく松代や千曲市方面からの乗客が大幅に増えるとは考えにくい(大石部長)」と懐疑的なようだ。
自治体に求められる負担は
屋代須坂線事業見直しについて千曲市の小川市長は「どういった支援が必要なのか。千曲市だけでは難しいので他の市とも連携していきたい」と話す。今年、長野市内6つのバス路線廃止では代替交通機関の確保に向けて、県と市の6月議会で補正予算が組まれた。自治体の財政にも関わる大きな課題となりそうだ。
(取材と文・白石茂樹)

地元住民の生活の足として利用されている屋代須坂線 通学以外でも高齢者にとっては松代病院への通院などで代替の利かないバス路線だ (屋代駅前バス停で撮影)

東屋代駅跡地広場(屋代線の運行当時は主に松代方面から屋代高校への通学に利用された)

屋代‐松代間ではシンリク観光のバスも一部運行中(屋代行き3便、松代行き2便 ※松代で撮影)

旧松代駅舎前で待機中の長電バス