ちくまブックレビュー『仕事で大切なことはすべて尼崎の小さな本屋で学んだ』

ちくまブックレビュー

『仕事で大切なことはすべて尼崎の小さな本屋で学んだ』

 川上徹也/著

 大学までエスカレーターで進学。その後特に目標もなく出版取次の会社に就職した新入社員の大森理香。しかし転勤先として配属されたのが縁もゆかりもない大阪の地。自分の生きがいややりがいが見出せず、存在自体も否定的でネガティブに考えるようになっていきます。そのやるせない思いがあふれた時上司に連れて行かれたのが、担当となる尼崎の小さな本屋「小林書店」。ここを経営する店主小林由美子さんとの触れ合いから成長していくノンフィクション小説です。

 本書に登場する「小林書店」は実際に存在し、作中で挿入される小林さんが話すエピソードは実際にあったものが引用されています。体験談がリアリティとして自分ごとに投影され、本屋を通じて個人商店の経営のあり方や仕事に対する向き合い方がわかりやすく描かれ秀逸です。

 売上が厳しいのは当たり前。その中で何ごとも前向きに捉えていくこと。小さな本屋だからこそできる顔が見える関係性は、不特定多数を相手にするネット販売などでは構築できないことだと改めて実感します。強みと弱みは表裏一体。考え方一つで行動も結果も大きく変わり、できることはたくさんある。他人に対して気に掛ける、感謝する、などは当たり前と思いつつもなかなかできない。でも仕事の原点は「そこ」なのです。

(文:田中一樹)

 ポプラ社  価格1600 円(+税)

 屋代西沢書店ほか県内書店で発売中。