essay 東京だより(第11回) 著者紹介 森村たまき 翻訳家 2504

essay 東京だより(第11回) 著者紹介 森村たまき 翻訳家

内川出身

 こんにちは、イギリス生まれのユーモア作家、P・G・ウッドハウスの翻訳をしております、森村たまきです。

 心臓外科の権威で日大元総長、千曲市名誉市民でいらした瀨在幸安先生が2月17日にご他界されました。先生とは何度かお目にかかる機会がありましたので、僭越ながら瀨在先生の思い出を少しお話しさせてください。

 私は出身が内川なのですが、瀨在先生は内川にあった瀨在医院の息子さんです。お父様は五加小学校の校医もされていましたから、幼い頃から予防接種も風邪の時も何もかも私は「瀨在お医者さん」のお世話になっていましたし、祖母が亡くなる前に自宅で半年ほど療養していた時も、往診にきてくださったことをよく覚えています。革製の黒い大きな往診カバンを提げてカチカチに凍った冬の庭を歩いていらした小柄な「瀨在お医者さん」のお姿や、瀨在医院の大きな時計や鼻がツーンとする、でもなんだか安心する薬の匂いは記憶に鮮烈に残っています。

 瀨在先生は愛校心の大変強い方で、屋代高校東京鳩会にも毎回ご出席でした。初めてお会いしたのも東京鳩会の懇親会だったのですが、その折もこんな瀨在お医者さんの思い出を聞いていただいた記憶があります。何度目だったかにお話しした時は、当時天皇陛下の心臓手術をお弟子さんの天野篤医師が執刀されたことが世の話題で、「ゴッドハンドと言われていますね」と、軽い気持ちで口にしたところ、居ずまいを正されて、「私たち医師は神ではないのです。決して神の手などと言ってはいけない」と少しだけ厳しい口調でおっしゃったことは忘れられません。

 東京鳩会総会はコロナで3年間開催されず、再開後もご体調を理由に欠席されましたから、お会いできたのは2020年が最後になりました。今年の東京鳩会は2月17日15時開始で、ご逝去の時間は受付開始の14時半ちょうどであったと伺って、みたまはきっとあの場に一緒にいらしたのだと深く感じ入ったのでした。偉大な先輩のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

※写真は2020年の東京鳩会の席上にて