essay 東京だより(第12回)  25年5月

essay 東京だより(第12回) 著者紹介 森村たまき 翻訳家 内川出身

 こんにちは、イギリス生まれのユーモア作家、P・G・ウッドハウスの翻訳をしております、森村たまきです。今回は東京ではなく、愛する地元の愛する伯母の話をさせてください。伯母と伯母のアイリス園のことです。

 私の母の実家は旧埴科郡森村で、私は結婚して夫の姓である森村を名乗るようになりました。それで結婚するとき父に、「母親は森村から来て、娘は森村に行くのか」と言われたという話は、以前もしたかもしれません。伯母は森村で生まれて歩いて5分もかからない隣家に嫁ぎました。以来70年以上、大農家の嫁として農業ひとすじに働き続けて今年95歳になる伯母が、この40年精魂込めて丹精しているのが虹の花として知られるジャーマンアイリスです。

 私の伯母、鮒田智子の管理するジャーマンアイリス観光花園は、10000株450種のジャーマンアイリスが咲き誇る、千曲市の5月の風物として知られる存在となっています。最盛期には無論お手伝いの方々が入るのですが、年間を通じて休みなく続く株掘り、出荷、植え付け、草取りといった地道な作業は今も伯母が直接やっています。花盛りに全国から訪れるお客様に喜んでもらえるのが励みだからと、ボケ防止だからと言いながら伯母は花の世話を続けてきました。その合間に東京の私宛に丹精した野菜や漬物を送ってくれる、それはもう働き者の伯母なのです。

 そのアイリス園ですが、伯母は今年までと決めたのだそうです。「もう最後だから、たまちゃんも見にきてよな」と電話をもらって、さみしい気持ちもありますが、もう無理はしないで欲しいと、よく決めてくれたと安堵しました。

 5月の連休頃はドワーフアイリスという小型のアイリスが見頃を迎えます。その後は10000株、450種のジャーマンアイリスが咲き始め咲き誇る、一番いい季節がやってきます。今年でおしまいだという伯母のアイリス園の有終の美を、お近くの皆さんもどうぞ見にいってください。

ジャーマンアイリス観光花園の営業はこの5月が最後。入場は無料です。