第八回 クリスマスカード
以前、友達に毎年クリスマスカードを送っていた時期があった。ある年、写真を撮ってオリジナルのカードを作ろうと思い立ち、赤いレインウェアーに障子紙で白い縁取りを付けてサンタの衣装に見立て、卜十カイのそりの代わりに自転車でプレゼントを配るという設定を決めて撮影の準備を進めた。肝心の撮影場所は、針葉樹の生い茂る冬の別荘地が雰囲気がいいと思ったのだが、自分はその頃クルマの免許を持っていなかった。そこで、“何バカなこと言ってんだ”と言われる覚悟で父に連れて行ってくれと頼んでみた。予想に反して父はすんなりとOKしてくれた。
実はその当時クルマを乗り換えたばかりの父は手に入れたばかりの新車を息子に自慢したかったようで、広い車内にMTBをそのまま積み込むと、撮影に向かう道中、嬉々とした表晴で新車のセールスポイントを助手席の息子に聞かせたのだった。撮影場所に選んだ菅平の別荘地には、当然ながら人っこ一人いなかった。人気のない冬の別荘地をサンタのコスプレでMTBを乗り回す息子と、それをカメラで追う父親。その姿は傍目にはかなり怪しく見えたに違いない。けれど今になってみると、そんなくだらない時間だからこそ、親子で共有できるのが貴重なことだと気付いた。今ではクリスマスカードも出さなくなってしまった。
父と二人ででかけた冬の日の思い出は、出し切れなかったカードと共に文箱に眠っている。