選者 安曇於保奈
【秀逸】
喧嘩して「好き?」と問われて「嫌い」と言う45年目の君に安堵す 湯本孝一
人生をともに積み重ねてこられた老夫婦の喧嘩と仲直りの場面をユーモア溢れるタッチで詠われた。夫が、僕のことは好きか、と訊くと、奥様は嫌いと、返すと仲直り。いつもの返しにほっとする夫。夫婦しかわからない機微を巧みに詠まれた。
【佳作】
海峡と銃とる子らの映像を残せしままに八月となる 百合
ホルムズ海峡の通航を駆け引きに戦争を続ける米・イスラエル、イラン。銃を取る少年兵。停戦交渉は双方の不信により出口が見えないまま、広島・長崎の原爆投下、敗戦の日を迎える日本の八月。無力に思える短歌だが、のように詠い続けることは無力ではない。
【入選】
海を背にチャシ跡群に移る夫五百年前の守り人めく 中村妙子
耳たぶの穴を目がけて部品入れやる気スイッチ点灯させる 伯田ちさと
朝早き新幹線は満席で顔顔顔の展示会なり 中村邦久
水涸れの溜池に生う睡蓮は白冴えざえと咲き盛りたり 宮本律子
風の中ひとりキュウイの花粉付け相棒ミツバチ今年はいずこ 宮坂 塘
それは傘カバンの中を探りつつペンシルケース探すため息 甘利真澄
停戦をしたかに見えた会談は終わりが見えぬ米イ戦争 宮坂岩子
世界では爆弾降るもわが国は満天の星と納涼花火 替佐梅蔵
涼風がページ繰ってる昼寝時バーチャルなのかそれともリアル 柳澤 純
奥村晃作の歌集『天啓』(2025年短歌研究社)から。
非力なるわれ神様に許されて短歌のことだけやって居ります
能登地震罹災の老いら毎日の〈処方の薬〉飲めていますか
戦争は何でも有りの悪だから戦争やめろヤメテクダサイ


