フォト&エッセイ 自転車のある風景 第十七回 オーストラリア横断自転車旅行⑤ 旅の途中で声を掛けてくれた人の家に泊めてもらう その2

第十七回 オーストラリア横断自転車旅行⑤

 旅の途中で声を掛けてくれた人の家に泊めてもらう その2

 旅の途中で初めて現地の人の家に泊めてもらった夜の続き。就寝の直前になって家の主人が自分は同性愛者だとカミングアウトしてきたのだが、悲劇は予想していたのとはまったく違う形でやって来た。寒さで夜中に目を覚まし自転車に寝袋を取りに行こうと外に出た瞬間、オートロックの扉が閉まってしまい家の中に戻れなくなってしまったのだ!

 旅を始めてからずっと固い地面の上に寝ていたので、久しぶりに柔らかいベッドで寝られると思ったのだが、結局いつもと変わらず。唯一の慰めは、Rennyの愛犬がいっしょに寝てくれたおかげで寒さを凌げたことくらいだった。

 翌朝、犬小屋の前で寄り添って寝ている一人と一匹を見てRennyはカンカンに怒りだした。”お前は俺が同性愛者だと聞いて怖くて外に逃げたのか!!” と言われ、そうではないんだと閉めだされた事情を説明した。すると今度は “日本からわざわざオーストラリアに来ているのに家の中に入れて欲しいなんていう簡単なことも言えないのか!!” と怒られてしまった。その後の会話や彼の様子から、客人を外で寝させてしまったことを彼がすごく申し訳なく思っている事が分かり、かえって悪いことをしてしまったとこちらも反省した。家の人を夜中に起こすより、外で寝た方が相手に迷惑をかけないと思っていたのだが、声をかけられなかった相手としてみれば、自分は信頼されていないと思ってしまうんだという事をこの一件で学んだ。Rennyとはその後誤解も解けて最後には笑顔で別れる事が出来た。

 彼の家で学んだことは、旅を続けるうえだけではなく、その後の生き方にも影響を与えた。誰にも迷惑掛けずに今まで生きてきたつもりでいたことが自分の傲慢だと気付かされ、それに気が付いたことでひとつ、成長することが出来たのだった。