おじょこな800字小説 第二十一回「タイムカプセル」作・塚田浩司

おじょこな800字小説

「タイムカプセル」

作・塚田浩司

 小学生の頃、家の庭にタイムカプセルを埋めた。カプセルの中には「二十年後の僕へ」という題の手紙を入れた。二十年前のことだから内容は覚えていないのに、二十年後に掘り起こす予定だけは覚えていて、男はそれを実行した。男は昔から妙なところで真面目だった。さっそく黄ばんだ手紙を開いた。

二十年後の僕へ

「元気ですか? 今の僕は元気です。二十年後の僕はどんな大人になっていますか? サッカー選手になって一億円を稼いでいますか? 大好物の海老フライを毎日食べていますか? どんな豪邸に住んでいますか? 今から大人になるのが楽しみです」

 男はここまで読んで手紙を折りたたんだ。やっぱり子供らしい非現実的なことが書かれている。馬鹿らしくて破りたくなる。

 しかし、純粋無垢だった頃の自分が書いた手紙を読んだ男は、罪悪感に似た感情から一通の手紙を書いた。それは誰に読まれるわけでもない無意味なものだが一生懸命書いた。

「二十年前の僕へ

君に謝らなければならないことがある。それは僕が君の期待を大きく裏切ってしまったからだ。申し訳ないがサッカー選手にはなれていないし一億円も稼いでいない。一億という金額は君が思っているより大きな額なんだ。まずそれを知ってほしい。あと、そもそも君は中学に入学するとサッカー部ではなくテニス部に入ったぞ。もちろんテニス選手にもなっていない。あと当時好きだった海老フライだが、もう食べていない。なぜかと言うと、君がこの手紙を書いてすぐに海老アレルギーになったからだ。それ以来、海老を見るのも嫌だ。それから豪邸に住んでいるかどうかだが、たしかに君の住んでいる家は広い。どんなセレブの豪邸よりも大きい。だが部屋は狭いし集団生活だ。それに周りはみんな悪人だ。

最後に二十年前の僕に言いたいことがある。それはな、タイムカプセルを掘り起こすために脱獄なんてするんじゃない。手紙にはたいしたことなんて書かれていない。そんな物のために俺は今、いつ捕まるか不安で不安で仕方がないんだ」