フォト&エッセイ 自転車のある風景 第二十六回 オーストラリア横断自転車旅行⑮

フォト&エッセイ 自転車のある風景 第二十六回 オーストラリア横断自転車旅行⑮

著者紹介 石黒靖彦/cafe自転車屋マスター。屋代出身。

オーストラリア横断中に初めて超えた州境は、西オーストラリア州と南オーストラリア州の境にあるユークラという町だった。ちょっと期待していたのだが、実際に州境を越える瞬間は実にあっけなかった。山に囲まれた長野では、他の県に行くのには峠を越えなければならず、汗をかいて県境まで登った後に、風を切って山道を下ると、心なしか景色も違って感じられるのだが、ナラボー平原の真ん中にある州境は全く景色が変わらず、ただそこに看板があることで隣の州に来たことが分かるだけだった。

 そんな初めての越境だったが、オーストラリアで州が変わるという事の本質は別のところにあった。南オーストラリアに入ってすぐに、見たことのない車がサイレンを鳴らしながら近寄ってきて、中から降りて来たガードマンのような制服を着た人物に、交通違反だからヘルメットを被れと言われ、何事かと思ったら彼らは南オーストラリア州の警察官だったのだ。それぞれの州政府が強い自治権を持っているオーストラリアでは、州によって法律が違い、警察もパトカーのデザインや警官の制服まで州毎に違うのだった。同じ制服の警官が同じデザインのパトカーに乗っているのが当たり前の国から来た身にとっては奇妙に思えたのだが、6つの植民地が連合して出来たオーストラリアの歴史を考えると、州の独立性が高いのも頷けるのだった。

 もう一つ州を越えて変わったのは時間。西オーストラリアと南オーストラリアはタイムゾーンが違うので、時間を1時間30分進めなければならなかった。

 時刻を修正してヘルメットを被り、“この先何度時計を修すのだろう?“と思いながら、新たな州での旅に漕ぎ出したのだった。