おじょこな800字小説 作・塚田浩司 第四十回「恵方巻きの効果」

おじょこな800字小説 作・塚田浩司 第四十回「恵方巻きの効果」

 今年の恵方は東北東だ。俺はさっそく東北東に向き恵方巻きにかぶりついた。恵方巻きは願いを思い浮かべながら無言で食べる。俺の願いは「ステキな女性と出会えますように」だ。俺ももう三十過ぎ。そろそろ結婚をと思い始めたのだ。

 太くて長い恵方巻きを食べ進めるが、これが中々難しい。水を飲みたくなったが今はとにかく無我夢中で食べなければいけない。だが味にも飽きたし腹も膨れてきた。でも、あとわずかで食べ切れる。最後の一口を一気に喉に押し込めた。

 その時、「うっ」。勢いよく詰め込んだせいで喉に詰まらせてしまった。くっ苦しい。俺は慌てて水を口に含んだ。それでも米の塊は胃の中に落ちていかない。

 まずい。このままでは死んでしまう。こんな年寄りみたいな死に方は嫌だ。

 その時、インターホンが鳴った。息ができないまま俺はドアを開けた。するとそこには見知らぬ美女が立っていた。

「隣に引っ越してきたものです」

 美女が頭を下げた。しかし、俺は何も答えられない。それどころか倒れ込んでしまった。

 そこから俺は救急車で病院に運ばれた。例の美女が呼んでくれたらしい。助かった。あの人がいなかったら今頃死んでいたかもしれない。幸いすぐに処置してもらえて帰宅が許された。それにしても美人だったな。ひょっとしたらこの素敵な出会いが恵方巻きの効果じゃないか。さっそくお礼しなければ。ニヤニヤしながら自宅のドアを開けた。そこで俺は目を疑った。部屋がぐちゃぐちゃに荒らされていたのだ。調べてみると現金がない。誰がこんなこと。もしかして……

 俺は慌てて大家さんに連絡した。思った通り新規の入居者はいないという。くそっ、やられたか。ステキな出会いどころか最悪の出会いだ。俺は失意のまま警察に通報した。

 三十分後、インターホンがなった。ドアを開けると女性警官が立っていた。

「警察です。お話を伺いにきました」

 まるで雷にうたれたような気がした。この女性警官めっちゃタイプ。

 もしかしてこれが恵方巻きの効果?

塚田浩司/柏屋当主。屋代出身。  ※ご感想をお寄せください

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