おじょこな800字小説 第8回「狐」作・塚田浩司

おじょこな800字小説 第8回

「狐」

作・塚田浩司

 いつもの通学路を歩いていると、土手の真ん中に黒いランドセルの人だかりが出来ていた。不思議に思った僕は、人波をかき分けて輪の中心に進んだ。するとそこには、一匹の動物が横たわっていた。犬か? でもちょっと違う。そう思っていると、誰かが「狐だよ」と言った。 僕はじっと狐を見た。狐はピクリとも動かない。その間にも児童がどんどん集ってくる。 

「まだ生きてるのかなあ?」 「いや、死んでるよ。息してないもん」 誰かが話し合っている。やっぱり死んでいるのか。でも、それにしては狐の体はあまりに綺麗で、ただ眠っているだけのようにも見えた。 「おまえ触ってみろよ」「嫌だよ」と周りで同級生たかが押し合いをしていた時、予鈴がなった。そこからみんな慌てて学校へ走った。 

僕は去年国語の授業で習った「ごんぎつね」を思い出した。あの話は僕が知っている物語の中で一番悲しい話だ。 休み時間、教室では男子を中心に狐の話題で持ち切りだった。 「きっと、ごんみたいに鉄砲で撃たれたんだよ」 僕と同じように「ごんぎつね」を思い出したクラスメイトがいた。でも、それはないと思う。だって体のどこにも傷はなかったのだから。 

学校が終わると、みんな狐を見たくて走って下校した。息を切らしながら土手に着くと、すでに下級生たかが集まっていた。 しかし、朝いた場所には狐の姿がない。どこに行ったのだろう。みんなで辺りを見回しだけど、どこにもいない。 「やっは生きていたんだよ。歩いて山に帰ったんじやないの?」 「いや、死んでたよ。息してなかったし」 朝と同じ会話が始まった。そこから、色々な話が出だけど、狐の居場所はわからない。 

その時、黄色い帽子を被った男の子が空を見上げた。つられて僕も空を見上げた。空にはもちろん青空しかない。 僕は小さなため息をつきながら顔を戻した。すると、そこにいた全員が一斉に空を見上げていた。